研究課題/領域番号 |
18K19676
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井原 賢 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (70450202)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | ノロウイルス / 抗体 / qPCR / 下水 |
研究実績の概要 |
遺伝子定量法であるqPCR法は、培養できないウイルスも定量できるため、環境サンプルや水サンプルだけでなく、臨床サンプルでも広く用いられている。しかし、遺伝子の存在量のみを定量するため、感染性のウイルスを正確に定量できないという課題がある。培養法に頼らない感染性ウイルスの定量法の確立を目的として、抗体濃縮(Immunoprecipitation (IP))とqPCRを組み合わせた手法(以下,IP-qPCR)に注目し、その有効性について基礎検討した。 今年度は、食品でのノロウイルス分析法として公定法になっているパンソルビントラップ法を参考にして、ヒト免疫グロブリン製剤を用いたIP-qPCRを流入下水に適用した。GII-ノロウイルス(GII-NoV)とトウガラシ微斑ウイルス(PMMoV)を定量した。そして、従来のqPCRと比較したところ,IP-qPCRのGII-NoVの検出濃度は従来qPCRの2~5%であった。IP-qPCRのPMMoVの検出濃度は従来のqPCRの5~13%であった。流入下水中の感染性をもつGII-NoVとPMMoVの量は従来のqPCRで検出される量よりも少ないと示唆された。また、流入下水を希釈してIP-qPCRを適用したところ、GII-NoVは検出されなかった。抗体濃縮によってGII-NoVの量がqPCRの検出下限値を下回ったためと考えられる。そのため、今後GII-NoV濃度の低い放流水や環境水にIP-qPCRを適用する場合、濃縮水量を増やすなどの工夫が必要である。 今年度の研究ではGII-NoV及びPMMoVに対して抗体濃縮が有効であると示唆されたが、今後その定量性について調べる必要がある。具体的には、培養可能なウイルスを用いて、培養法、IP-qPCR及び従来qPCRの検出濃度を比較し、定量値がどのように異なるのかを調べる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パンソルビン法で使われているヒト免疫グロブリン製剤を使った抗体濃縮によって下水中の感染性ウイルスを濃縮できる可能性を示すことができた。研究は順調に進展している。 当初の計画とはことなり磁気ビーズは用いていないが、これは、最初の検討段階としては高価な磁気ビーズを用いるよりも、安価なセファロースビーズを用いて検討する方が良い、との判断による。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究結果からは、もともとノロウイルス濃度が低い水試料に抗体濃縮法を適用すると、GII-NoVの量がqPCRの検出下限値を下回ってしまうことが考えられた。そのため、今後GII-NoV濃度の低い放流水や環境水にIP-qPCRを適用する場合、濃縮水量を増やすなどの工夫が必要である。今後この点を検討していく。 今年度の研究ではGII-NoV及びPMMoVに対して抗体濃縮が有効であると示唆されたが、今後その定量性について調べる必要がある。具体的には、培養可能なウイルスを用いて、培養法、IP-qPCR及び従来qPCRの検出濃度を比較し、定量値がどのように異なるのかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画にあった磁気ビーズは、高価なため、初期検討段階で使用するのはふさわしくないと判断し、より安価なセファロースビーズでの検討実験に切り替えたため、物品費を節約することができた。 翌年度は、ウイルス濃度が薄い水試料へ対応するための大容量の水試料への適用検討など、当初計画になかった検討項目があるので、その分の消耗品費の増加が見込まれる。また、最終的には磁気ビーズを用いた簡易濃縮法へと移行するので、その意味でも消耗品費の増加が今後見込まれる。このような使用計画に従って、「次年度使用額」と「翌年度分として請求した助成金」と合わせて研究を遂行していく。
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