食品でのノロウイルス分析法として公定法になっているパンソルビントラップ法を参考にして、ヒト免疫グロブリン製剤を用いたIP-qPCRを流入下水に適用した。GII-ノロウイルス(GII-NoV)とトウガラシ微斑ウイルス(PMMoV)を定量した結果、そして、従来のqPCRと比較したところ,IP-qPCRのGIINoVの検出濃度は従来qPCRの2~5%であった。この結果から、GII-NoV及びPMMoVに対して抗体濃縮が有効であると示唆された。 本研究では、培養可能なウイルスを用いてのIP-qPCRの検討も行った。具体的にはバクテリオファージMS2を用いて検討を行った。 実験では、事前に培養して増やしたMS2を遠沈管にとりわけ、抗MS2抗体とプロテインGセファロースビーズを添加して、室温で反応させたのちに、遠心によってビーズを回収した。そして、回収したビーズからウイルスRNAを抽出し、逆転写を行い、qPCRに供した。免疫沈降前のMS2濃度と免疫沈降後のqPCRによる濃度測定を比較することで、抗体によってMS2がどれくらい回収できるかを把握することとした。その結果、抗MS2抗体の投入量に依存して、MS2の回収量が増加した。最大でほぼ100%の回収率があることを確認できた。抗MS2抗体は、他のウイルス例えばQbは免疫沈降させてこないこと、ウイルスRNAも沈降させてこないことも確認した。つまり抗体によって粒子形態を保っているMS2が免沈されたと言える。 さらには、抗MS2抗体で免疫沈降されたMS2-抗体複合体から、弱い界面活性剤によって感染性のあるMS2を回収することに成功した。培養法で感染性のあるMS2を測定すると、添加した感染性MS2の50%程度の回収率があることが確認できた。感染性のあるウイルスを抗体で免沈できることを示した重要な成果である。
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