研究課題/領域番号 |
18K19677
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
清水 喜久雄 大阪大学, 放射線科学基盤機構附属ラジオアイソトープ総合センター, 准教授 (20162696)
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研究分担者 |
松尾 陽一郎 福井大学, 学術研究院工学系部門, 講師 (90568883)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 食品照射 / PCR法 |
研究実績の概要 |
PCRとは、DNA分子の特定の領域または全体を、さまざまなDNAポリメラーゼを利用して量的に増幅する手法のことである。PCR法の原理から、鋳型となるDNAに放射線照射による損傷があれば、ポリメラーゼ連鎖反応を阻害すると考えられる。すなわち、ポリメラーゼ連鎖反応でのDNA合成効率から、鋳型として機能する未損傷のDNA量を評価できると考えられる。 食品のモデルとして、乾燥したオーストラリア産牛肉(ビーフジャーキー、以後サンプルB)および熱加工済みの国産豚肉(ロースハム、以後サンプルP)を用いた。大阪大学産業科学研究所のコバルト60を用い、食品サンプルにガンマ線を5kGy、10kGy室温照射した。照射後、QIAGEN社のDNA精製キットを用いて、食品サンプルからDNAを精製し、TE緩衝液で4ng/μlとなるように希釈した。サンプルBおよびサンプルPについて、1wellあたり4 ngのDNAに対し、リアルタイムPCRを行い、鋳型として機能する未損傷のDNA量を評価した。リアルタイムPCRの際の蛍光色素としSYBRGreenを用いた。DNA量の評価には、Bio-Rad社、DNA定量ソフトウェアCFX Managerを用いた。 5kGy、10kGyのガンマ線照射によりサンプルBおよびサンプルPともに未損傷DNAは低下し、10~20%程度に減少することが明らかとなった。10kGyでは有意に0Gy(未照射)と差があり、照射済食品を識別できることが示された。 本手法は、従来法と比較して、サンプルの取り扱い、運用コスト、操作の熟練が必要でない等、多くの利点がある。今後、試験対象(部位、品種、サンプル保存方法等)を増やし、適応性の検証を進めていく計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リアルタイムPCR法で肉類の食品照射を検知ことが可能でることが確かめられた。 本手法は、従来法と比較して、サンプルの取り扱い、運用コスト、操作の熟練が必要でない等、多くの利点がある。今後、試験対象(部位、品種、サンプル保存方法等)を増やし、適応性の検証を進めていく計画である。
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今後の研究の推進方策 |
本手法の課題としては、実際に使用する現場を想定した場合、未照射のサンプルをどのように定義するかを考える必要がある。ひとつの解決法として、アルカリ反応やDNase(DNAを切断する酵素)によりDNAを化学的に切断し、その追加のDNA切断による未損傷のDNA量の差分を評価することで、照射線量を評価する方法は有効であるかもしれない(すなわち、照射食品のDNAであれば、このような化学処理による未損傷DNAの減少の幅が少なく、未照射食品との差が明確になると考えられる。また、PCRの領域を工夫する事で照射食品特有のDNA切断を評価することが可能であるかもしれない。本実験では200bp程度の領域を増幅領域としたが、このほかに150bp、100bpの利用域もそれぞれPCRを行い、DNA合成量を評価する。放射線によるDNA損傷はポアソン分布に従うランダムな反応であるため、DNA合成する領域が大きくなればそれだけPCR反応は阻害されることが予想される。一方、未照射の食品のDNAであれば、PCRの領域によらず一定のDNA合成が可能となる。すなわち、PCRの領域(DNAの長さ)に依存する結果が得られることが照射食品の証拠となると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度リアルタイムPCR装置を購入した。 新しい装置での条件設定を行った後に、実際の照射試料の解析を行ったがガンマ線照射施設の改修等で十分な試料の作成が出来なかった。そこで初年度は条件設定を厳密におこなうこととして、実際の試料の解析を次年度に回した。
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