【背景】術後せん妄はいったん発症すると時として大量の薬物を使用しなければならず、患者への身体的影響が大きくなることが多い。術後せん妄による術後管理計画の遅れや入院期間の延長などからより多くの費用を必要とする。このことから、術後せん妄の発症リスクを予測しその発生を未然に予防する方法、及びせん妄徴候をいち早く察知・評価し、治療を開始するための方法の確立が望まれている。そこで、本研究では術後せん妄は「高齢者において頻発する」と言う知見に基づいて新たなモデルマウスを作成し解析を行った。【方法】老化研究で主に用いられている老化促進モデルであるSAMP1マウス(Takeda 2009)と正常マウス(SAMR1)に対して疑似的開腹手術(肝臓の一部を摘出)を施し、認知機能解析と血液成分解析を行った。【結果】手術後、認知機能テストの一つであるプレパルスインヒビションテストを行ったところ、SAMR1マウスと比較しSAMP1マウスの方が優位に低下していた。麻酔のみの場合、両者に差は見られなかった。なにも行っていないSAMR1マウスとSAMP1マウスの血液成分を比較した結果、総コレステロール、HDLコレステロール、総ビリルビンの有意な低下がみられた。一方、血球数、電解質に差は見られなかった。【考察】今回の実験によって老化促進(SAMP1)マウスの方が手術によって認知機能が低下し易いことが明らかになった。近年、酸化ストレスと術後せん妄の関係が指摘されている。生体において重要な抗酸化物質であるビリルビンが老化促進マウスにおいて低下していることから、今後、酸化ストレスもまた高齢者に見られる術後せん妄のメカニズム解明に重要であるのではないかと予想される。
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