研究課題
突然死の死因の約半数は,心臓・大血管系疾患で占められている.しかしながら,心臓性突然死例と考えられる事例で形態学的に明らかな変化を伴わない,心室細動等の「致死性不整脈」で死亡したと推測される事例にしばしば遭遇する.ただし,現時点で致死性不整脈の法医学的診断は除外診断で,推定の域にとどまることから,法医診断学的に致死性不整脈の積極的診断法の確立が望まれている.急性臓器不全の組織障害の病態生理は完全に明らかでないが,好中球の活性化や虚血・再潅流にともなう酸化ストレスによる細胞傷害が大きな役割を果たしている.酸化ストレスはヘムタンパク質からヘムを遊離させる.遊離ヘムは脂溶性の鉄であることから,活性酸素生成を促進して細胞傷害を悪化させる.この侵襲に対抗するために,ヘム分解の律速酵素:Heme Oxygenase -1(HO-1)が細胞内に誘導されることが知られている.そこで,心臓死と非心臓死群で心臓におけるHO-1発現を検討した.法医剖検例において,死因が急性心臓死である事例を抽出し,形態学的変化を有するものと明らかな形態学的変化を有しない,死因が致死性不整脈と考えられる事例に分けて,検討を行った.対照として,非心臓死(溺死,窒息,焼死,薬物中毒)群とした.免疫組織化学的にHO-1の発現を検討したところ,非心臓死群と比較して心臓死群ではHO-1の発現が有意に亢進していた.さらに,心臓死群において,病理組織学的に収縮帯壊死や心筋細胞の波状走行といった形態学的変化を認めた群とそのような形態学的変化を認めなかった群を比較したところ,HO-1の発現に差は認められなかった.一方,年齢や性別で検討したところ,HO-1の発現は年齢や性別による差は認められかった.以上のことから,HO-1の発現を検討することが,致死性不整脈の診断に役立つことが明らかとなった.
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