研究課題/領域番号 |
18K19698
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
船島 由美子 国際医療福祉大学, 福岡保健医療学部, 助教 (70752814)
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研究分担者 |
永沢 善三 国際医療福祉大学, 福岡保健医療学部, 教授 (80706820)
佐藤 謙一 国際医療福祉大学, 福岡保健医療学部, 准教授 (90505687)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | LAMP法 / CPE |
研究実績の概要 |
わが国が2016年に発表した薬剤耐性対策(AMR)アクションプランでは、2020年までに薬剤耐性菌として蔓延傾向にあるカルバペネム系耐性腸内細菌科細菌、特にCarbapenemase producing Enterobacteriaceae(CPE)を中心とした薬剤耐性菌検出率の低減が途上国に求められた。薬剤耐性菌の蔓延を予防するためには、細菌が保有する薬剤耐性遺伝子を網羅的に検出することが必須と言える。現在、一部の医療施設ではPCR法での薬剤耐性遺伝子を市販のキット類で検査しているが、耐性遺伝子領域に変異が存在する場合には検出できないため、変異が存在しても検出できる網羅的なプライマーの開発が必要である。また、開発途上国では残念ながら高額な遺伝子検査機器が普及していない現状にあるため、薬剤耐性菌の蔓延を防止する対策の恐れが懸念される。 そこで、本研究ではCPE(カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌)をターゲットに、開発途上国でも高額な機器を必要とせず、迅速で網羅的に薬剤耐性菌遺伝子をLoop-Mediated Isothermal Amplification (LAMP)法にて検出する検査技術の構築を目的としている。①薬剤耐性遺伝子領域の塩基配列を比較解析し、変異部分が存在しても増幅可能なプライマーの設計を実施する。②開発途上国での使用においては、高額な機器を必要としない策として薬剤耐性遺伝子の増幅にヒートブロック、検出には蛍光反応を利用した目視判定でかつ簡易な検査システムを構築する。③現状の薬剤感受性試験による表現型を用いた薬剤耐性菌鑑別をより迅速に実践するため、最先端の質量分析装置でのスペクトル波形と組み合わせた薬剤耐性遺伝子の網羅的な検出技術を開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回はCarbapenemase主要5ファミリーとして、KPC(Klebsiella pneumoniae arbapenemase)、NDM(New Delhi metallo-beta-lactamase)、VIM(Verona integron-encoded metallo-beta-lactamase)、OXA-48-like(Oxacillin carbapenemases-48-like)、IMP(Imipenemase metallo-beta-lactamase)に対するLAMP法のプライマー設計を行った。その後、LAMP法の測定時の最適な条件設定について検討を実施した。最初にCarbapenemase主要5ファミリー遺伝子のプライマーを用いた反応温度の比較について行った結果、VIMは65℃、NDMは63℃、KPCは65℃、OXA-48-likeは65℃、IMPは61℃で最速反応を示した。単独のCarbapenemaseを目的とする場合は最速反応温度で行うべきであるが、Carbapenemase主要5ファミリー遺伝子を同時に検出する場合は、63℃が最も至適温度と考える。しかし、反応温度を上げることは特異性の向上にもつながるが、プライマーのミスマッチが存在する型についてはさらに詳細な検証が必要になる。 次に、LAMP法の感度について検討を行った。抽出原液の×1/10倍段階希釈系列の反応性では、測定感度はいずれのカルバペネマーゼタイプでもVIM以外は2×10*3 copies相当まで検出できた。DNA量が少ない試料については、試料中テンプレート採取時に左右されることもあり正確な評価は困難であると推察される。この事は分離株からの分析では問題とならないが今後、臨床材料を直接分析する場合は重要性を増すと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
NDMとKPCについては、マルチプルアライメント結果より、全てのLAMP法プライマーと全変異型の塩基配列が一致しているため全変異型の検出が推測できる。LAMP法プライマー設計において多様化しているのがIMPである。IMPについては変異型の多さより、1セットのLAMP法プライマーでの対応は困難なためIMP 全ての変異型をマルチプルアライメントの結果からグループ1からグループ3の3つのグループに分類しプライマーを設計した。この中でグループ1のプライマーセットはわが国で頻発する変異型を多く含むことと所有菌株の関係から、IMPグループ1についての検証を実施する予定である。他の、KPC、NDM、VIM、OXA-48-likeについても所有株は少ないがLAMP法を行う。 また、開発途上国では残念ながら高額な遺伝子検査機器が普及していない現状にあり、薬剤耐性菌の蔓延が懸念される。薬剤耐性菌の蔓延を防止するため、高価な遺伝子検査機器を保有していない施設や国でも簡易に実施できる遺伝子検査法として、専用の機器を必要とせず、簡易・迅速に薬剤耐性遺伝子のタイプが鑑別できる遺伝子増幅法としてLAMP法の導入を考える。その方法として、増幅にヒートブロックを用い、また、検出には蛍光反応を利用して目視判定を行えるように検討予定である。 医療施設において慢性疾患治療中の患者や免疫低下症患者もしくは高齢者で抗菌剤投与前患者、長期抗菌剤投与患者などは、迅速な耐性菌検査情報を必要とする。今後は抗菌剤治療に貢献できるさらなる迅速耐性菌情報の提供の試みとして、検体から直接DNA抽出を行い、LAMP法を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度ではLAMP法におけるプライマー設計、至適反応温度、測定感度などの条件設定、更には日本で高頻度で分離されるCPE約100株について測定を予定していた。しかし、CPE約100株のLAMP法測定が実施出来ずに次年度の課題へと持ち越したため。 次年度は、LAMP法の消耗品を購入予定である。
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