研究課題/領域番号 |
18K19704
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
根東 義明 日本大学, 医学部, 教授 (00221250)
|
研究分担者 |
渋谷 昭子 日本大学, 医学部, 助教 (20611619)
三澤 仁平 日本大学, 医学部, 助教 (80612928)
前田 幸宏 日本大学, 医学部, 助手 (10287641)
市川 理恵 日本大学, 医学部, 研究員 (00826761)
日紫喜 光良 東邦大学, 理学部, 准教授 (30324271)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
キーワード | 医療安全 / 意思決定 / 価値観 |
研究実績の概要 |
第1の研究計画であり、本研究計画の最も重要な柱である価値観分類の比較検討を行った。すでに研究計画調書にも記載していたEduard Springerの6類型、世界価値観調査項目、Schwartzの10分類について、研究代表者および分担者の週1回の定期的な研究打合せを通じて、それぞれの長所及び短所を明らかにしていった。その結果、現時点ではこれらのどれかの分類を選択することは、医療安全における思考過程の価値観として適応するためには、残念ながら適切とは言い難いことが明らかとなってきた。このため、独自の価値観分類を作製し、第2年度の統計分析作業に供することとし、分類原案の概要を完成しつつある。現時点ではその完成度は70%程度と自己評価しており、第2年度の当初1,2か月を費やして完成させる予定となっている。 第2の研究計画として立案した「要考慮価値観」関連事例のデータベース化は、価値観の分類法の完成と深い関係にあるため、抽出を完了したとは言えない状況にあるが、一方でこの間、公営財団法人日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業の約75,000件の医療事故およびヒヤリ・ハット事例のデータベース化を無事に完了した。さらに、適切な「要考慮価値観」関連事例の抽出のためのキーワードとしてどのような用語が重要かを全研究者の打ち合わせの結果から第一段階として、(「思い込み」OR「意味」OR「価値」OR「意思」OR「信念」)AND(「死亡」OR「重大」OR「間違い」)の検索式で絞り込むこととした。その結果からは100事例以上の暫定的な「要考慮価値観」事例データベースが作成された。一方、各事例についての詳細な検討は今年度の研究範囲では完了できず、この検索式の妥当性についてもまだ検証が完了していないため、これらの作業は引き続き第2年度の当初に継続することとした。医療安全の価値観分類確立の困難を痛感する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究課題の採択が7月に通知されたため、研究活動の開始が大幅に遅れたが、8月以降は比較的順調に要考慮価値観の分類に関する検討作業を進めてくることができた。また、データベースの構築作業については、以前から医療安全データベース構築のための準備作業を所属研究分野の研究プロジェクトの中で一部進めていたことから、その延長線上の作業として今回の研究計画を進めることができたため、大幅なデータベース構築研究の遅れにはつながらずに済んでいる。 一方で困難を極めているのは当初想定した通り、医療安全にもっとも適切に応用できる価値観分類の決定作業だった。研究調書で引用した各価値観分類は、実際にその詳細を評価してみると、医療における意思決定のプロセスに直接適用できるとは限らないような内容を多く包含しているために、そのまま適応した場合には、どの分類法についても大きな混乱をきたすことが予想できるものだった。また、医療安全のための価値観分類法そのものの概念がないことから、先行研究に分類法のよりどころを求めることは事実上不可能だった。 こうした状況から、残念ながら初年度で医療安全のための価値観分類の原案を確立することはできず、暫定案として第2年度の研究計画で用いることを余儀なくされた。しかし、最終的に価値観分類を確立するためには、いずれにしても要考慮価値観関連事例を自らの判断で抽出し、一度それらに応用することで分類法自体を評価するという過程を経なければならないという意味で、初年度に作成した暫定案はかなりの未完成度ではあっても、研究を進める上では十分価値をもったものを作製し得たと考えている。 以上のことから、初年度の研究計画については、(1)開始時期が遅れたこと、(2)分類法の確立が想定以上に困難だったこと、の2点から遅れてはいるものの、第2年度の当初の計画を遂行する上では大きな支障にはならないと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
研究の第2年度には、当初の計画通り抽出した「要配慮価値観」関連事例の特徴分析を開始する。年度当初の数か月については前年度の事例抽出作業が並行することになるが、すでに抽出されている事例も多数存在しているので、特徴分析自体は年度当初から開始することになる。特徴分析は具体的には、事例に関係した医療者の経験年数をはじめとする様々な特徴の分布の統計データ作成に始まり、起こった医療過誤・インシデントの種別分類など、医療者と事象を包括的に特徴づける内容を網羅する予定である。また、医療者を取り巻く医療現場の特徴についても、例えば診療科や部門をはじめとして環境という視点から分析を併せて行う予定である。 次に行う研究計画は初年度の研究成果として完成形に近づけている要考慮価値観分類を用いた各事例の分類相関データの作成である。分類されたどの価値観がどの医療の有害事象に偏るのかについての分析を進めることにより、重大な価値観の誤りを起こしやすい有害事象を明確化し、どの価値観への取り組みが実際の医療安全に重要と言えるのかを解明したい。 分析結果の公表については、できる限り第2年度中にと考えているが、進捗に応じてどのように進めるかを判断したい。当面の目標としては、2019年11月3日および4日に開催される第57回日本医療・病院管理学会学術総会と2020年3月7日に開催される第6回日本医療安全学会学術総会での演題発表を目指して研究を進めたい。前者についてはデータベースの構築までの研究成果を発表し、後者については構築されたデータベースを分析した結果としての要考慮価値観関連事例の特徴分析の結果を公表できれば大きな成果につながるものと期待する。 初年度に行った価値観分類法の独自開発については、第2年度も引き続き進めなければならないことを痛感しており、大幅な修正も必要となる覚悟で慎重に作業を進める所存である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
要考慮価値観に関する資料を収集するために、初年度に多額の費用が必要と想定したが、インターネット情報が膨大だったため、その分析作業に時間を要し、資料等購入が年度内に進まなかった。この資料収集作業は当初よりは規模が小さくなることが予想されるものの、重要資料収集が完了したわけではないため、第2年度にも収集作業を継続する予定である。 また、第2年度に着手し第3年度に本格的に作業を進めていく予定の要配慮価値観自己評価アプリケーションの開発には当初考えていたよりも多額の費用がかかることが明らかとなってきた。これに備え、第2年度も引き続き開発予算確保のために研究費の節約が大変重要であると痛感している。現時点では、アプリケーション開発のためのコーディング作業の人件費は作業総量で約4人月を要し、約200万円が必要になることを想定している。このことから、最終年度には約300万円の予算が計上できるような研究費の再配分を考える必要があり、初年度の研究費の一部もそのように合理的に活用し、しっかりとした節約計画を進めていきたいと考えている。この他、第2年度以降の学会発表などの活動費が膨らむ可能性が高く、特に最終年度に成果発表が集中することも念頭に入れれば、初年度に所要額が小さくなったことは大変ありがたかったとも考えるところである。 今後も貴重な研究費を適正かつ合理的に活用させていただくよう努力してまいります。
|