研究課題
法医実務における死体検案時には髄液検査が日常的に行われているが、その目的はクモ膜下出血等の鑑別にとどまっている。日本では法医解剖率が低く、死亡時画像検査も異状死全例には実施されていないので、死後髄液検査で頭蓋内傷病変の種類や重症度を評価できるようになれば、法医実務上の利用価値は極めて高い。本課題では、我々が開発したNMRモード解析法を死後髄液検査に応用することにより、1)頭蓋内傷病変の傷病名を識別できるか、2)死因が、脳浮腫、脳ヘルニア、脳死、神経細胞傷害、脳循環代謝障害などの重篤な頭蓋内病態であると推定できるか、検討することとした。新型コロナウィルス感染症の蔓延による研究活動の自粛や本学におけるNMR装置および実験施設のリニューアル工事の影響を受けたことや、研究計画の日本医科大学中央倫理委員会承認までに想定以上の時間を要してしまったことなどを理由に、研究期間を2年延長した。令和3年後半には、日本医科大学法医学教室においても本格的な髄液サンプルの収集体制が整ったが、期間内に「頭蓋内傷病変」を死因とする髄液サンプルを入手することができなかった。このため、研究開始当初の目的を達成するための研究を開始することができず、研究期間中は、今後に備え、「NMRモード解析法」を新しい髄液検査技術として実用化するために解決すべき技術的な課題を洗い出し、アルブミン溶液やヒト標準血清、検案や解剖時に採取した髄液サンプルを用いて、「死後髄液のNMRモード解析」に必要な要素技術の開発を行った。本課題の目的達成のためには、「頭蓋内傷病変」を明らかな死因とする髄液サンプルの入手が必須となる。解剖せず検案のみで死因が判断された事例では、実際に死亡経過に影響を与えた傷病変の全てが明らかにされていない可能性もあり、今後は解剖事例で全身所見が明らかな髄液サンプルを対象とした研究を進めていく予定である。