ベトナムにおけるダイオキシン高曝露地域であるビエンホア基地周辺地区に居住する男性32名を対象として脳MRIをシーメンス社3TMRI装置(TrioTim)を用いて、3D-T1強調画像とDTI画像を撮影した。この撮影データをDIXCOMデータとして日本に持ち帰り、脳領域別灰白質の体積をVBM (Voxel-based morphometry) 法およびDTI法で解析するためのデータベースの作成をBioView社に依頼した。VBM解析ソフトSPM12を用いて、血中ダイオキシン濃度と71の脳領域体積との相関について、年齢と頭蓋内全体積を調整した解析を行った。 その結果、TCDD濃度が増加するに従い左側頭葉の紡錘状回の体積が減少していた。また、4塩化ダイオキシン(TCDD)やダイオキシン類総毒性等価量(TEQ-PCDD)の増加と共に、左の内側側頭葉極の体積が有意に減少していた。次に、対象者の母親が妊娠・出産期にビエンホア基地周辺地域に在住していたか否かにより推定した周産期曝露の有無による脳領域別体積の相違を解析したところ、周産期曝露群では、左の眼窩部下前頭回の体積が、非曝露群に比べ有意に低下していた。また、全脳体積および全灰白質体積も、周産期曝露群で有意に増大していた。 また、DTI法による解析では、神経線維結合の強さを反映すると考えられているFA値(fractional anisotropy)を、DTI解析ソフトTravkVisを用いて算出し、共分散分析を用いてFA値を高低曝露群間で比較した。その結果、血中TCDD高値群の左右の帯状束海馬部分および右鉤状筋束のFA値が低値群に比べ有意に低く、左鉤状筋束のFA値は、血中TEQ-PCDD高値群で有意に低かった。また、周産期曝露群では、左の帯状束海馬部分のFA値が非曝露群に比べ有意に低かった。
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