研究課題
遺伝性の心臓性不整脈による突然死は解剖によっても形態的異常に乏しく、その原因究明は困難である。我々は法医解剖において40代男性の突然死症例を経験し、その原因究明の一環として網羅的遺伝子解析を行ったところ、Brugada症候群やlong QT症候群の原因遺伝子であるSCN5A遺伝子の変異が検出された。遺伝子変異が検出されただけでは死亡の原因と確定することはできないため、病的意義の判断には機能解析や家族解析などの傍証が必要である。本年度中には家族解析しか行うことはできていないが、今後も継続して研究していく予定である。3年間の期間を通して、突然死症例からiPS細胞を樹立することができた。これは、原因不明のてんかんの既往があり、死後に遺伝子解析を行ったところSTXBP1遺伝子に変異が検出された小児突然死症例の解剖例に対し、解剖時に線維芽細胞を培養したのち、iPS細胞を樹立したものである。この試みは、法医学分野においては初の試みである。予定していた各種臓器への分化や複数症例での樹立は成し得なかったが、これまでの形態的変化を重視してきた法医学診断において、今後は機能的解析・生前の再現という新たな手法を導入できたものと考える。一方で、一例の樹立に必要な時間・費用・体制は予想以上であり、予定数の症例を実施することができなかった。今後の課題としては、この手法を容易に実行可能なものとすることで実務応用可能なものとし、近い症例にはルーチンワークとなるよう継続して取り組みたい。