研究課題/領域番号 |
18K19714
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
西村 泰光 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (90360271)
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研究分担者 |
吉岡 大輔 川崎医科大学, 医学部, 助教 (40638318)
大槻 剛巳 川崎医科大学, 医学部, 教授 (40160551)
武井 直子 川崎医科大学, 医学部, 講師 (00509276)
李 順姫 川崎医科大学, 医学部, 助教 (70414026)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | ナノ毒性 / チタン / 産業衛生 / 免疫 / 単球 / アポトーシス / リソソーム / オートファジー |
研究実績の概要 |
チタン酸ナノシート(TiNS)は極薄のチタン酸化物であり産業利用が期待されているが毒性影響は調べられていなかった。我々は、TiNS曝露がヒト単球に著明な空胞形成を伴うカスパーゼ依存性アポトーシスを誘導すること、TiNSは空胞内部に存在し、リソソーム量が著増することを明らかにしてきた。そこで、ヒトCD14+単球を磁気分離し、合成したTiNS(菱形:縦横軸約20 x 30 nm)またはTiO2-P25(日本アエロジル社, 粒子:粒径約25 nm)曝露下で単球を2または7日間培養し、オートファゴゾームのnucleationおよびelongationに働く26遺伝子およびmTORの遺伝子発現量をRealtime RT-PCRにより調べた。TiNS曝露によりATG101, Beclin-1, ATG12, ATG3を含み2日後で12遺伝子、7日後で10遺伝子発現量が増加しており、オートファジー機能の亢進を示した。オートファジーはオートファゴゾームのリソソームとの融合で完了し、従ってオートファジー機能の亢進がアポトーシスの原因であれば、オートファジー阻害はアポトーシスを抑制し、リソソーム阻害はアポトーシスを更に増加すると予想された。しかし、アポトーシスはオートファジーを抑制するPI3K阻害剤wormanninでは抑制されず、寧ろリソソーム機能低下に働くv-ATPase阻害剤bafilomycin A1により抑制された。また、bafilomycin A1添加はTiNS曝露時の空胞形成も抑制した。以上の結果はTiNS曝露により単球のオートファジーは亢進するが毒性によるアポトーシス誘導には関与せず、寧ろv-ATPase依存性のリソソームの異常な増大がTiNSが持つナノ毒性の機序であることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TiNS曝露によるオートファジー機能亢進を広範な遺伝子についての転写産物解析により捉えることができた。予想とは異なり、オートファジー阻害はTiNS曝露によるアポトーシスを抑制しなかったが、リソソーム過剰に着目し阻害剤を検討することで、TiNS毒性機序の一端を捉えることが出来た。それらの知見は、TiNSが既存のTiO2とは異なる毒性影響を持つこと、およびその機序の一端を明示している。以上のように、現在までに計画どおりに研究成果を得ることができており、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの知見に基づき、現在、2種類のヒト単球系細胞株を用いてTiNS曝露影響の解析を進めており、準備が完了しだいそれらの細胞を被検体とした網羅的解析の実施を予定している。それにより、未知の影響を含むTiNS毒性機序に関わる遺伝子クラスターが明らかになる可能性がある。また、同時にリンパ球へのTiNS曝露影響の解析も進める予定であり、これについても単球への機能解析に倣い実施を計画する。それらの in vitroの実験計画、および続く動物実験を計画し、それらによってTiNS毒性影響の解明を進める。また、進展が順調であれば、TiNS毒性機序を応用した標的細胞の細胞死を誘導する創薬シーズ探索への基盤となるアッセイ系の構築を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度途中で実験補助者が退職することとなり、新規に実験補助者が決まるまで人件費の支出が滞り、また関わる実験に多少の停滞が生じたため。
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