研究課題
高齢者における皮膚潰瘍・褥瘡に対する効果的治療法・治療薬の開発が待たれている.本研究はTRPV3に焦点を当て,前年度までに,難治性皮膚潰瘍・褥瘡モデルの作製およびTRPV3 activatorsの創傷治癒促進作用の詳細な検討を行った.TRPV3 activatorsの創傷周囲の皮内投与及び創面への塗布により肉芽形成促進と血管新生をみとめたが,TRPV3 activators投与により強い引っ掻き行動も惹起されることを報告してきた.令和2年度は,難治性皮膚潰瘍・褥瘡モデルでTRPV3 activatorsの創傷治癒促進作用の詳細な検討を行った.内因性TRPV3 activators とされるFarnesyl pyrophosphate(FPP)の塗布により血管に富む正常な肉芽形成の促進を認めた.FPP投与3-4日後より強い引っ掻き行動により創面の観察が困難になった.FPPの作用は17R-resolvin D1および創傷部位のTRPV3ノックダウンで減弱した.TRPV3ノックダウンおよび17R-resolvinD1単独では創傷治癒の遅延は認められず,生体での皮膚温(~32℃)ではTRPV3が十分に活性化されない可能性が考えられる.現在,TRPV3 activatorの有効な使用法について検討しているが創傷治癒促進と掻痒を区別するに至っていない.マウス初代培養ケラチノサイトを用いたin vivo スクラッチアッセイにおいてもTRPV3 活性化に依存して創傷治癒が促進される傾向にあった.TRPV3発現動態については有意な変化はみられなかった.本研究によってTRPV3が創傷治癒を促進することを明らかにし,そのメカニズムを詳細に解明することができれば,将来,難治性潰瘍や難治性褥瘡に対して新しい治療法,医薬品の開発,臨床応用に大きく貢献できることが予測される.