研究課題/領域番号 |
18K19722
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
神崎 展 東北大学, 医工学研究科, 准教授 (10272262)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 運動 / イメージング / 運動免疫 / 好中球 / GLUT4 / 糖代謝 |
研究実績の概要 |
骨格筋組織は運動活動により多彩な液性因子(マイオカイン)を分泌する。このマイオカインとして多数のサイトカイン類やインターロイキン類が存在することが知られているが、運動と免疫系との連携制御の詳細は不明な点が多い。本研究課題では運動時の骨格筋組織内における微小血管系のライブイメージング解析系を構築し、運動刺激により遊走してくる免疫系細胞(特に好中球)と血管内皮細胞への接着凝集状態を観察することを目的としている。さらに、このライブイメージング系を活用することにより、活動筋組織中への好中球の動員メカニズムとその生理的重要性を探索する。 H30年度は、多光子共焦点レーザー顕微鏡を用いたin vivoライブイメージング観察を構築し、予め染色した好中球(量子ドット標識)が「筋運動ニッチ」領域へと動員される様子(特に動員頻度と滞在時間/ローリング動態)を可視化解析することに成功した。これは、麻酔下にあるマウスの大腿四頭筋に対して電気パルス刺激(EPS)を付与することにより、顕微鏡下で筋収縮運動を任意に負荷できる独自の実験系を新規に構築することにより達成することができた。さらに、このin vivoライブイメージング観察系を用いることにより、骨格筋特異的GLUT4-EGFP発現トランスジェニックマウス(GLUT4-EGFP-Tgマウス)の、この好中球動員部位(賦活化された筋運動ニッチ領域)局所における筋線維(筋膜およびT-tubuleへ)のGLUT4膜移行量を毛細血管(および動員好中球)との位置関係を把握した上で定量解析することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
運動中の骨格筋組織内をライブイメージング観察するために、マウス大腿四頭筋に対して直接電極を刺し電気パルス刺激(EPS)誘発性の筋収縮を負荷する実験系を構築した。本手法では、麻酔下にあるマウス大腿四頭筋を多光子共焦点レーザー顕微鏡上でライブイメージングするため、まさに運動中の骨格筋組織内部を観察することが可能となった。観察に先立ち、抗Gr-1抗体で標識した量子ドットを尾静脈注射することにより好中球を赤色蛍光標識し、収縮運動の負荷によって好中球が凝集する様子を確認した。さらに、骨格筋特異的GLUT4-EGFP発現トランスジェニックマウス(GLUT4-EGFP-Tgマウス)を観察対象として用いることにより、収縮運動に対する生理応用性(運動依存性のGLUT4-EGFPの膜移行状態)と好中球の動員動態を同時にモニターすることに成功している。運動依存性のGLUT4膜移行量については、2次元フーリエ変換法により各々微小領域でのT管およびサルコレンマ膜のGLUT4量を定量解析する手法を開発した。現在、運動骨格筋内における好中球の凝集はパッチ状であった。好中球がパッチ上に凝集している微小領域近傍と、それ以外の領域(毛細血管が接着していない部位や血管から離れた筋線維)との機能的差異(GLUT4-EGFPの膜移行状態の遷移)を掌握することに取り組んでおり、活動筋組織中への好中球の動員メカニズムとその生理的重要性に関する研究を予定通りに遂行中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまでに構築した上記in vivoライブイメージング観察系を活用することにより、筋運動による好中球の動員メカニズムと、免疫系細胞の生理的役割を探索する。まず、運動依存性の好中球動員メカニズムを明らかにする目的で、寄与が想定される各種マイオカイン類(CXCL1,CXCL5, CCL2など)に対するアンタゴニストによる運動依存性の好中球動員動態と糖代謝亢進作用に対する影響について調べる。また、in vivoライブイメージング実験によって得られた実験結果に基づき、実際の運動負荷実験条件下における好中球動員状態とその糖代謝亢進効果、さらには運動能力におよぼす影響を検討することにより、個体における「運動筋ニッチ」の生理的重要性についても検証を進める。筋運動ニッチでの動員好中球と内皮細胞間の相互作用性を明らかにする。好中球枯渇マウスは、抗Gr1抗体注入により作製し、好中球枯渇状態における筋運動能力および糖代謝能力(GLUT4膜移行動態)について解析する。また、H30年度は大腿四頭筋に直接白金電極を刺してEPSを付与したが、白金電極による侵襲性による免疫系の賦活化の影響も否定できない。そこで、座骨神経に対してEPSを付与して下肢各骨格筋組織を収縮運動させる実験系を新たに構築し、上述のin vivoイメージング解析を行うことにより、今回構築した実験系の信頼度と応用性を高める。
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