研究課題
膵臓β細胞の増殖を促進する脂肪酸を特定するとともに、その作用機序を解明するために、C57BL/6Jマウスの膵臓からランゲルハンス島を単離し、炭素鎖長および不飽和度の異なる様々な脂肪酸を添加した培地で培養し、β細胞の増殖能の評価を行った。β細胞の増殖は、修飾チミジンアナログEdUのβ細胞への取り込みを蛍光免疫染色により観察、定量的に評価した。同時に、脂肪酸による毒性を、死細胞のpropidium Iodide核染色およびアポトーシスマーカーcleaved capspase-3の免疫染色にて評価した。その結果、ある2種類の脂肪酸の添加により、膵臓β細胞の細胞死は誘導せずにベータ細胞の増殖が促進されることを明らかにした。この効果はアシルCoA合成酵素阻害剤Triacsin Cによりキャンセルされたことから、脂肪酸が細胞内に取り込まれて代謝されることが必要であると考えられる。特定した脂肪酸による膵臓β細胞増殖作用機序の解明のためにトランスクリプトーム解析を行い、β細胞の増殖と相関して発現が変化する遺伝子を複数見出し、リアルタイムPCRでもその発現変化を確認した。今後、これら遺伝子のβ細胞への増殖促進効果を、マウス単離ラ氏島や膵β細胞株で検証する。生体における脂肪酸の長期的な投与は膵臓β細胞の増殖を引き起こす一方、場合によっては脂肪毒性を引き起こす可能性があるが、「脂肪酸により制御されるβ細胞増殖経路」を選択的にコントロールできれば、脂肪毒性を引き起こすことなく膵臓β細胞量を増加させることが可能となる。
2: おおむね順調に進展している
ベータ細胞増殖効果の高い脂肪酸を特定し、その作用が細胞内での脂肪酸の代謝を介することや、ベータ細胞の増殖と発現が相関する遺伝子を抽出できたため。
特定した脂肪酸による膵臓β細胞増殖作用機序の解明:特定したβ細胞の増殖を促進する脂肪酸の作用機序を、トランスクリプトーム解析を中心に解析し、影響を受ける代謝パスウェイやシグナル伝達経路を抽出する。また、β細胞の増殖と相関して発現が変化する遺伝子を過剰発現またはノックダウンする系を構築し、これら遺伝子のβ細胞への増殖促進効果をマウス単離ラ氏島や膵β細胞株で検証する。さらに、上記の解析で特定した膵臓β細胞増殖促進作用のある脂肪酸やその作用機序に関与する分子の活性化剤あるいは阻害剤を、正常マウス、2型糖尿病モデルであるdb/dbマウス、1糖尿病モデルであるストレプトゾトシン処置マウスなどに投与し、in vivoでの膵β細胞増殖効果を評価する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件)
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