研究課題
食塩は食物の美味しさを決定する重要な味物質である。一方、塩分摂取過多は高血圧、がん等の疾病の原因となり、減塩食品の創出は学術的、産業的、社会的に大きく注目されている。塩味受容に関してはNa+とCl-が必須である。にもかかわらずこれまで食塩(NaCl)の味細胞受容に関わるチャネル分子に関してはアミロライド感受性マウスENaCが報告されているのみである。申請者は塩味受容 Type I 味細胞に発現する遺伝子をRNA-sec法(次世代シークエンス)を駆使し、膜貫通領域含有および Type II 味細胞(甘・旨・苦)消失のSkn-1a-/-マウスも同等の発現量であること、in situ hybridizationで味細胞特異的な発現をしている新規イオンチャネル(nClチャネルと表記)を見い出し、塩味チャネル候補分子と推定した。HEK293T培養細胞を用いた電気生理実験(パッチクランプ法)からnCl分子はクロライドイオンチャネルであることが明らかになった。さらに、このチャネルをノックアウトしたマウスの塩味応答性は野生型マウスに比べ優位に低下した。本研究は、候補塩味チャネルを活性化させる因子を食品成分から見い出し、減塩食品の創成に貢献することが期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、nClチャネルのイオンチャネル分子特性とnCl-KOマウスの味覚特性を解析する基盤研究とnClチャネルの活性化に関与する食品因子探索の開発研究を実施し、現在の進捗状況は以下の通りである。(1)nClチャネルをHEK293細胞に導入し、NaCl受容機構を電気生理学的(パッチクランプ法)に解析した。Cl-阻害剤によりnClチャネル活性が低下した。Cl-以外のanionの種類による特性を解析した結果、イオン透過性はCl- >F- >B2- >I- の順であった。(2)ゲノム編集(TALEN法)によりnCl-KOマウスを作成した。nCl-KOマウスの飼育、味覚テストの研究は朝倉富子氏(連携研究者)が担当した。(3)nCl-KOマウスの二瓶嗜好性テストでは、塩味忌避性が優位に低下した。他の基本味である甘・旨・苦・酸味の嗜好性には変化が見られなかった。(4)nCl-KOマウスの口腔内味溶液への滴下に伴う味神経(舌咽・鼓索神経)応答解析を行った結果、舌咽神経の塩味応答が優位に低下した。減塩食品の開発には、塩味センシング技術の構築が必須である。そこで、nCl分子を導入した培養細胞アッセイ系が塩味センシング技術として利用できるかの可能性を解析した。官能検査により塩味強度は温度により変化するが、nCl培養細胞系アッセイでも確認でき、この系は塩味センシング技術として活用できることが明らかになった。
本研究では、nClチャネルのイオンチャネル分子特性とnCl-KOマウスの味覚特性を解析する基盤研究とnClチャネルの活性化に関与する食品因子探索の開発研究を実施する計画である。昨年度は主にnClチャネルの基盤研究を行った。本年度はnClを活用する塩味センシング技術を用いて、塩味増強物質探索の開発研究を行う。塩味イオンチャネルの分子実態を解明し、それを導入した培養細胞アッセイ系を構築し、活性化因子の探索を行うことで減塩食品の創成に貢献する。(1)nCl塩味センシング技術の構築に向けたアッセイ条件の検討を行う。(2)塩味増強効果を持つ化合物とそれらの類縁体を合成し、塩味増強活性を測定する。活性を示す化合物については官能検査での確認を実施する。(3)香辛料化合物についてもスクリーニングを行う。
2018年度に予定していた開発研究は2019年度に実施する計画となった。そのためスクリーニングのパッチクランプアッセイ系の消耗品費(試薬・器具など)536,076円を2019年度に使用したい。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 8件) 備考 (2件)
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