今年度は、新型コロナ感染症流行の影響によりフィールドでの実験が困難になったことから、オンラインでの実験・調査ツールを用いて顔表情と心理的状態の関係について検討した。この際、顔表情の変容手法としての化粧に注目し、女性競技者129名を対象として日常時および競技時における化粧の影響について、日本語版感情プロフィール検査(POMS2)およびリラクセーション評価尺度を用いて検討した。その結果、日常時および競技時に共通した化粧の効果として「抑鬱-落ち込み」ならびに「認知的不安」の軽減、および「活気-活力」の増大が認められた。また、「緊張-不安」および「心理的安静」の項目に関しては、日常時と競技時において化粧の効果が異なることが明らかになった。 さらに、自らの化粧が他者の顔表情認知に及ぼす影響について実験的に検討した。実験では13名の女性競技者がオンライン上での顔表情認知課題を実施した。課題には顔表情データベースをもとにして幸福ー恐怖の顔画像を10%ずつ変化させたモーフィング画像を用い、参加者は自らの化粧あり/なし条件下で強制2択方式によって表情判断を行うとともに、判断に対する自信度を5段階で回答した。その結果、化粧あり条件では回答に対する自信度が増大することが明らかになった。これらの結果は、化粧によって顔表情を変容させることで、自らの不安軽減や活力増大などの心理的効果が得られるとともに、これらが対人認知の変容にもつながりうることを示している。
|