研究実績の概要 |
人間が食する油脂の90%以上はグリセリンに脂肪酸が3つエステル結合をしたトリアシルグリセロール(TAG)と呼ばれるものである。TAGに結合する脂肪酸は、飽和脂肪酸、モノ不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸(PUFA)などがある。特にPUFAは人間体内で合成出来ないため必須脂肪酸と呼ばれている。近年、魚油、シソ油、エゴマ油などの機能性油脂が市場規模を大きくしているが、これら油脂を摂取した際、摂取した油脂由来の脂肪酸が本当に体の組織に取り込まれているのかを確認する術はない。そこで本研究では、TAGに結合している脂肪酸の2つのα位結合水素をTAGの構造を破壊することなく重水素ラベル化し、天然に存在する脂肪酸より分子量が2つ大きくなる方法を探索した。これにより質量分析を用い、食べたTAG由来脂肪酸を追跡可能となる。 昨年度は、重水素交換に使用する触媒として塩基性化合物を中心に評価したが、すべての合成条件で加水分解が起こってしまい、TAGの構造を維持したまま重水素化反応を完了させることが出来なかった。そこで本年度は、酸性化合物を触媒として用い重水素化反応を実施した。TAGとしてトリオレインを用いて行い、合成確認は液体クロマトグラフータンデムマススペクトロメトリーを用い、トリオレインの分子量が+6になるかを指標に実施した。メタノール重水素化物とトリオレインを混合し、Benzenesulfonic Acid、1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene、4-Dimethylaminopyridine、Methanesulfonic Acid、p -Toluenesulfonic Acid、Trifluoroacetic Acidなどを添加し、様々な条件下で重水素交換反応を試みたが、トリオレインの構造を破壊することなく重水素化を達成することは出来なかった。
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