研究課題/領域番号 |
18K19737
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大日向 耕作 京都大学, 農学研究科, 准教授 (00361147)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | 認知機能 / 高脂肪食 / 糖尿病 / 神経新生 / 神経栄養因子 / 海馬 |
研究実績の概要 |
脳は、体全体の2%の体積であるにもかかわらず全エネルギーの1/4を消費し、また、血液脳関門が存在することから独立性の高い臓器といえる。一方で、脳も末梢環境に少なからず影響を受け、また、末梢からの食シグナルを受容することも知られている。実際、疫学調査により糖尿病は認知症の危険因子であることが判明し末梢環境が脳機能に影響を及ぼすことが明らかになってきている。また、高脂肪食の摂取により糖尿病発症リスクを上昇させることから、高脂肪食を与えたマウスの認知機能を検討したところ、認知機能が低下することが判明した。さらに本研究では、高脂肪食摂取の認知機能に及ぼす影響を検討するとともに、中枢と末梢の各種パラメーターが、どのように変化するか経時的に測定し、なぜ、高脂肪食摂取により認知機能が低下するのか、その主要因を解明する。また、海馬は短期記憶に関する脳部位として知られ、従来、胎生期から幼年期において認められる神経新生は成体期では起こらないとされていたが、海馬歯状回では生涯を通じて新しくニューロンが生成していることが判明した。今回、短期間の高脂肪食摂取により成体マウス海馬神経新生が低下することを見出したことから、さらに、その作用機構の解明を図る。 加えて、認知症予防では、神経細胞死が誘発される前の対策が重要であり、予防効果を示す機能分子を安全性の高い安価な食品から日常的に摂取できれば理想的である。そこで、疫学調査から認知機能低下の有意な防御因子であることが判明している食品から、認知機能の低下を抑制する機能分子を探索する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
認知機能を位置認識試験(Object Recognition Test, ORT)で評価した。本試験は、短期記憶に重要な脳部位の海馬に依存する記憶の評価系として知られる。まず、ラードを主成分とする高脂肪食を雄性マウスに4週間投与し糖尿病モデル動物を作成したところ、高脂肪食摂取により新規物体へのアプローチ時間が低下し海馬依存的な認知機能低下が認められた。4週間の高脂肪食摂取では体重や脂肪重量が増加し血糖値が上昇することから、既に糖尿病の病態を呈しているといえる。したがって、食餌誘発肥満(Diet-induced obesity, DIO)による糖尿病により認知機能の低下が認められることをin vivo評価系で確認した。 さらに、成体マウスに高脂肪食を1週間与えたところ、ORTにおける新規物体へのアプローチ時間が低下することを見出し、極めて短期間で認知機能低下が惹起されることが判明した。さらに、認知症機能と海馬神経新生の関連を指摘する報告があり検討したところ、高脂肪食摂取により海馬神経新生が低下することが明らかとなった。なお、1週間の高脂肪食摂取では絶食時血糖は普通食群と同程度であり糖尿病発症の初期段階であることが明らかとなった、したがって、短期間の高脂肪食摂取により認知機能と海馬神経新生が低下することが判明した。また、海馬のmRNA発現を検討したところ、いくつかの神経栄養因子の発現に変動が認められた。
|
今後の研究の推進方策 |
短期間の高脂肪食摂取による中枢に及ぼす影響を検討したところ認知機能が低下するとともに海馬神経新生が低下することが明らかとなった。さらに、高脂肪食摂取の末梢に及ぼす影響を検討し、どのような末梢環境の変化が中枢に影響し認知機能を低下させるのかを明らかにする。具体的には、認知機能の低下が認められるマウス血液のメタボローム解析を行う。認知機能低下を誘発する脂質分子候補を探索する。血液中の炎症メディエーターを明らかにし、認知機能との因果関係を検討する。そのほか必要に応じて炎症以外の要因についても検討する。なお、1週間の高脂肪食摂取では絶食時血糖は普通食群と同程度であり糖尿病発症の初期段階といえるが、さらに、グルコース負荷試験やインスリン負荷試験を実施し、エネルギー代謝に及ぼす影響を詳細に検討する。加えて、本評価系に用いて認知機能の低下を抑制する機能分子を探索する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、短期間の高脂肪食摂取により海馬神経新生の低下が認められたことから中枢の解析を優先的に実施した。本年度は、末梢の解析を重点的に実施し末梢シグナルが中枢にどのように伝達されるかを解明する予定である。そのために必要な試薬と実験動物を購入する。
|