運動が健康に良いことは知られているが、行動に移すことは容易ではない。げっ歯類を用いた研究においては、強制的に運動をさせる手段として、ペプチドや薬物の脳内への直接投与などが用いられる。しかし、ヒトへの応用を考えるとき、脳内への直接作用は危険であるため、末梢からの介入が必要である。腸は第2の脳と言われ、腸脳相関は生体の中で重要な情報伝達経路である。本研究では、高運動志向性マウスの消化管から運動意欲を高める新たな腸脳相関システムを開拓することを目的とした。 回転かご運動が多い高運動志向性マウスおよび回転かご運動が少ない低運動志向性マウス同士を交配させ、これらのマウスから消化管上皮細胞を採取し、遺伝子発現の違いを網羅的に比較した。その結果、いくつかの候補遺伝子がみつかった。そのうちの1つはアゴニストの経口投与により運動志向が向上すること、迷走神経求心路を阻害することでその作用が低下することを見出した。上記候補遺伝子の遺伝子欠損マウスを用いて、そのアゴニストを経口投与しても運動志向性は上昇せず、このマウスの消化管にアデノウイルスを用いて人工的に遺伝子発現を復活させると、脂肪食摂取による運動志向性の向上作用がみられた。運動モチベーションが高いマウスは脳内ドーパミンが多く、中枢内にドーパミン阻害薬を投与すると運動モチベーションが減退するため、ドーパミンが関与することは確かめられた。 今後はこれらの結果を論文にまとめて公表する。
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