研究課題
本研究課題は、非必須アミノ酸セリンの合成酵素Phgdhの遺伝子変異によるセリン欠乏が惹起する細胞死・個体致死という重篤な表現型の根幹の機序としての「ミトコンドリア機能不全仮説」を検証し、さらにその予防に資する栄養療法の開発を到達目標としている。 今年度はセリン合成不全疾患モデル細胞の解析を主に行い、以下の成果を得た。 まずPhgdh欠損マウス胚性線維芽細胞(KO-MEF)について、従来法より厳密な新たに確立した培地セリン制限条件を用い、ミトコンドリア特異的な2種類の蛍光色素での標識実験から、制限後24時間で顕著な結合蛍光強度の低下に至ることを確認し、細胞内セリン欠乏によりミトコンドリアの量的減少および膜電位減弱が惹起されていることを確認した。また、遺伝子およびタンパク質発現においても従来セリン制限法よりも明瞭な発現変化に至ることを確認した。そこでセリン欠乏によるミトコンドリア機能変化について細胞内代謝物の定量的メタボローム解析からの検証を行った。その結果、セリン制限条件24時間で、広範囲の代謝物に有意な量的変化が生じていることを明らかにした。特にエネルギー産生に関わる中心炭素代謝経路の代謝物に著しい量的変化が生じていた。さらにセリン欠乏によるインスリン情報伝達経路の異常とアポトーシス誘導経路についても新規知見を得た。また、セリン合成不全のマウス個体モデルである脳特異的Phgdh KOマウスにおいては、神経伝達におけるCa++シグナル異常を見いだした。加えてヒトアルツハイマー病におけるセリン合成不全について、国際共同成果を発表できた。また、マウス個体での研究から、カイコ由来セリシンの経口摂取によって脳内L-セリンが増加することを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
今年度はセリン欠乏によるエネルギー代謝を含む細胞内代謝への影響を明らかにすべく定量的メタボローム解析を実施し、中心炭素代謝経路を構成する代謝物変化の全体像を明らかにできた。この結果はこれまでに得られた他の解析結果と合致し、セリンとミトコンドリアにおけるエネルギー代謝に予想を超える強い機能的連関があることを明らかにできた成果であった。また他の項目についても概ね順調に進展して新規知見を得ることができた。アルツハイマー病との関係については、国際共同研究成果によって、ヒト同疾患患者はおけるセリン合成不全と神経伝達機能障害の強い関連を明らかにできた。そのため、当初計画における個体モデル解析の進め方について若干の軌道修正が必要と考えている。
本研究の最終年度である2020年度は、以下の項目について検討を行う予定である。1) セリン合成能欠損KO-MEFにおけるセリン欠乏によるミトコンドリア形態変化とその分子機序の解析2) セリン合成能欠損KO-MEFにおけるセリン欠乏によるミトコンドリア機能低下、糖代謝シグナル伝達、細胞死、代謝物変化の機能的連関に関する詳細な解析3) 脳特異的Phgdh KOマウス脳における神経伝達物質シグナル経路とミトコンドリア機能変化連関の探索4) アミロイド蓄積神経変性モデルマウスにおけるセリン合成系ならびにミトコンドリア機能変化の探索
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (5件)
Cell Metab.
巻: 31 ページ: 503 - 517
10.1016/j.cmet.2020.02.004.
Biosci. Biotech. Biochem.
巻: 84 ページ: 372 - 379
10.1080/09168451.2019.1676693.