研究課題/領域番号 |
18K19751
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
古市 泰郎 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 助教 (40733035)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
キーワード | 筋サテライト細胞 / 筋分化 / インクジェットプリンタ |
研究実績の概要 |
骨格筋の未知なる働きを解明するためには培養細胞を用いた実験が必須であるが、世界中で使われている「筋管細胞」は、生体の「筋線維」に比べると極めて幼弱で骨格筋本来の性質を獲得しきれていない。そのため、筋管細胞を用いた実験には限界があり、それが骨格筋研究の発展を阻んでいる。そこで本研究は、筋管細胞の成熟度を促進させる方法を開発し、既存の筋管細胞よりも成熟した培養「筋線維」を創ることに挑戦する。平成30年度は、筋管細胞の伸長方向を揃えることを目指した。 生体の筋線維は方向が統一されており、骨格筋の収縮装置(サルコメア)は規則的に整列しその構造も明確に観察される。しかし筋管細胞はランダムな方向に伸長するため、サルコメアの形成が不十分で構造も不明確である。そこで、細胞の接着に必要なマトリゲル(接着因子の混合物)を「線状」に塗布すれば、細胞はそこだけに整列して伸長方向が揃うと考えた。 インクジェットプリンタ技術を利用して、10から50マイクロメートル幅でライン状にマトリゲルを培養プレートに塗布し、その上に骨格筋の組織幹細胞であるサテライト細胞を培養した。50マイクロメートル幅のマトリゲルが塗布された場所にサテライト細胞は優先的に接着し、その上で分化を誘導すると、同一の方向に筋細胞は伸長した。αアクチニンの免疫染色を行ったところ、マトリゲル印刷で方向が揃った細胞は成熟骨格筋細胞に特徴的なサルコメア構造が形成されていることが分かった。筋細胞の伸長方向を揃えることは筋分化の促進に重要な要素であることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画にあった初年度の内容を予定通り進めて成果を生むことができた。また、次年度の内容である筋線維のRNAシーケンス解析を予定を早めて取りかかることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
おおむね計画通りに進める。細胞の伸長方向を揃える実験について、マトリゲルの塗布をしていない部分にも細胞が接着してしまう問題があるため、より精度を高めるために、細胞接着の阻害剤の塗布、あるいは他の細胞工学的技術を利用することを計画している。 また、培養ディッシュの硬さや細胞外基質の成分について注目し、筋細胞の分化を促進させる方法を多角的に検討していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では筋線維の遺伝子発現解析を平成31年に実施する予定だったが、予想よりも進展があり、その解析の一部を平成30年度に終えることができた。進展はあったが使用経費は予定額を上回ることはなかった。平成31年度には、海外の研究室との共同研究を通して研究の進展を図ることを計画しており、当該年度に残った予算はその旅費滞在費等に充てる予定である。
|