研究課題/領域番号 |
18K19752
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
藤井 宣晴 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 教授 (40509296)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 骨格筋 / マイオカイン / サルコペニア / 分泌 |
研究実績の概要 |
加齢に伴う骨格筋量の減少および筋力の低下はサルコペニアと呼ばれ、高齢者の生活の質を低下させるだけでなく、様々な疾病に対する抵抗力を減少させる。日本は世界に先駆け未曽有の超高齢化社会を迎えており、サルコペニアの抑制が、医療費の低減・要介護の回避・健康寿命の延伸といった諸問題の解決に必須と考えられている。インスリンはタンパク質合成促進作用を持つホルモンで、膵臓のβ細胞で産生される。骨格筋は膵臓から分泌されたインスリンが作用する最も大きな標的臓器であり、加齢に伴うインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性の増大)が、筋量および筋力を低下させる原因と考えられるようになってきた。申請者はこれまでに、骨格筋から分泌されるホルモンの網羅的探索を進めてきた。その過程で、膵臓にしか存在しないとされてきたインスリンが、骨格筋でも産生・分泌されている証拠を複数得た。骨格筋が、膵臓から分泌されるインスリンの単なる受け手ではなく、自身でもインスリンを産生・分泌しているとなれば、これまでのサルコペニア成立機序とその予防・治療法の常識は覆されることになる。加えて、以下に示す3つの重要な問いが生じる。 (1) 骨格筋のインスリンは、筋量・筋力の決定因子か? (2) 骨格筋のインスリン含有量や分泌能力は、加齢とともに減少するか? (3) 骨格筋のインスリンを標的とした、サルコペニア予防・治療は可能か? 本研究は、上記の問いの答えを得ることを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CRISPR/Cas9法を用いたゲノム編集技術を応用することによって、インスリンを産生できない培養骨格筋細胞を樹立することができた。最初はマウス骨格筋から単離した筋サテライト細胞を用いて試みたが、比較的剥がれやすい性質と増殖能力の低さが問題となった。そこで、それぞれについて比較的高い能力を持つC2C12骨格筋細胞株に切り替えてインスリン遺伝子の点変異作製を行ったところ、バルクではあるが実験に使用可能な細胞株が得られた。C2C12細胞はマウス由来で、マウスには2つのインスリン遺伝子があり(インスリン1、インスリン2)、それらの塩基配列は非常に似ているため、一種類のガイドRNAを用意することで、両方の遺伝子に点変異を加えインスリン産生を阻害することが確かめらた。インスリン産生を阻害された骨格筋細胞は、少なくとも増殖能力に関しては正常で、実験に使用できることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
正常な筋細胞を用いて、インスリンの産生・分泌能力が亢進する条件を探索する。検討する条件は、筋収縮(筋培養細胞に運動させるモデル)、インスリン感受性増強剤(チアゾリン薬、ビグアナイド薬、等)、低栄養条件(低グルコース・アミノ酸濃度)、種々の化合物(東京大学創薬機構化合物スクリーニングを利用)である。また、正常な筋細胞に薬剤等で筋萎縮を誘導した際に、上記で検討したインスリン分泌を亢進させる条件を組み合わせると、萎縮が抑制されるかを明らかにする。加えて、同様の実験を、CRISPR/Cas9法によってインスリン産生を阻害した細胞株でも行い、これらによって、骨格筋のインスリン産生・分泌の能力に着目したサルコペニアの新予防・治療法の可能性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
骨格筋細胞に対して、糖代謝改善薬および筋萎縮促進薬/抑制薬を使用する実験を次年度に繰り越したため、それらの薬品を購入するための物品費も、次年度に繰り越した。
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