研究課題/領域番号 |
18K19754
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
伊吹 裕子 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (30236781)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 老化 / 熱 / γ-H2AX / アクチン / DNA損傷 / 細胞骨格 / DNase I |
研究実績の概要 |
本研究は、組織の老化について、熱処理による細胞骨格の崩壊に基づくDNA切断を指標に評価する系を構築することを目的としている。本年度は、1.年齢の異なるヒト皮膚細胞を用いて、熱処理を行った場合のヒストンH2AXリン酸化(γ-H2AX)誘導の検討、2.老化促進マウスを使用し、熱処理、評価を行うための条件の検討を行った。 1.年齢の異なるヒト皮膚細胞における熱処理後のγ-H2AX誘導:前年度の検討から、PDL(Population doubling level)が40程度のヒト皮膚細胞ASF-4-1を正常細胞、PDL50~55程度の細胞を老化細胞とし、比較実験を行った。DNA損傷のマーカーであるγ-H2AXは、熱処理温度、時間依存的に誘導され、正常細胞に比べて老化細胞では1~2℃低い温度で、また、短い熱処理時間でその誘導が検出された。 2.老化促進マウスを用いた予備検討:老化促進マウスSAMを用いて脾臓リンパ球を採取し、熱処理後のγ-H2AXを検討した。正常老化を示すR系と老化促進を示すP系の9か月齢を使用した。前年度の検討において、リンパ系培養細胞HL-60は41~44℃の熱処理で顕著なγ-H2AXの誘導を示したため、これを含む温度域(38~44℃)で熱処理を行った。その結果、1.で示した培養細胞を用いた結果とは逆に、正常マウスの方が老化促進マウスに比べ、低い温度、短い処理時間でγ-H2AXを誘導した。 以上の結果から、in vitroとin vivoではγ-H2AX誘導のパターンに違いがあったが、老化による差が認められるという結果が得られた。また、詳細は記載しないが、細胞骨格の崩壊試薬作用後に熱処理を行うとγ-H2AXが多く検出されることから、老化による細胞骨格の崩壊を熱処理で簡易に測ることが可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年齢の異なる培養細胞を用いて熱処理後のγ-H2AXの検出を行い、正常細胞と老化細胞の有意な違いを検出できた。また、培養細胞とは逆のデータとなったが、老化促進マウスを用いたin vivo実験では、脾臓リンパ球への熱処理により、誘導されるDNA損傷に差があることが示された。老化による変化をDNA損傷(γ-H2AX)で測るという点では、in vivo, in vitroとも予定通り実験を遂行できた。一方、当初は、老化によるアクチンの量を検討することにしていたが、アクチン量を測るよりも、アクチンを崩壊してからのγ-H2AXを測る方が効果的と考え、その検討を先に行った。アクチン量の変化については次年度の検討内容に含ませる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト皮膚細胞ASF-4-1を用いて、γ-H2AX誘導の老化による亢進メカニズムについて検討を行う。本研究では、熱処理により細胞骨格を崩壊させるとアクチンと結合していたDeoxyribonuclease I (DNase I)が遊離し、核内に移行しDNAを切断するという発想に基づいている。そこで、老化細胞におけるDNase Iの遊離、核内移行のメカニズムなどについても検討を進める。また、γ-H2AXの生成量が老化により変化したことから、細胞骨格アクチンの重合量との関係についても検討を行う。 平行してin vivoの実験を進める。本年度の予備検討により、リンパ球における熱作用後のγ-H2AXの生成量は老化により変化することが示唆されたので、それを確定させるための再検討を行う。
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