研究課題/領域番号 |
18K19755
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
石川 智久 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (10201914)
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研究分担者 |
金子 雪子 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (00381038)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 妊娠糖尿病 / インスリン分泌 / 膵β細胞 / メラトニン受容体 / N‐アセチルセロトニン |
研究実績の概要 |
メラトニンは、セロトニンからarylalkylamine N-acetyltransferase(AANAT)によるN-acetyl serotonin(NAS)の産生を経て、hydroxyindole O-methyltransferase(HIOMT)により生成される。膵β細胞において、セロトニンはインスリン分泌促進及び妊娠期における膵β細胞増殖に関与すること、また、セロトニンから変換され生成されるメラトニンもインスリン分泌調節に関わることが報告されている。そこで本研究では、膵β細胞におけるメラトニンシグナリングの意義を解明し、妊娠糖尿病との関連を明らかにすることを目的とした。 今年度は、C57BL/6Jマウス単離膵島およびβ細胞株INS-1細胞を用いて、NASが細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)変化及びインスリン分泌に及ぼす効果、INS-1細胞におけるNASの生成について解析を行った。16.7 mMグルコース刺激により発生する[Ca2+]iオシレーションに対して、NASは濃度依存的に抑制した。グルコース誘発インスリン分泌も30 μM NAS処置により有意に抑制された。NASのこれらの作用は、非選択的メラトニン受容体阻害薬であるluzindoleにより抑制されたが、MT2受容体選択的阻害薬4-P-PDOTではluzindoleほどの抑制は認められなかった。以上より、膵β細胞において、NASは主にメラトニンMT1受容体を介してインスリン分泌を抑制することが示唆された。次に、膵β細胞におけるNASの合成を検討するため、HPLCを用いてINS-1細胞の培養上清中のNASを定量した。しかし、500 μMセロトニン存在下においても、INS-1細胞の培養上清中にNASを検出することはできなかった。すなわち、NASがINS-1細胞で生成されていることを支持する結果は得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の検討により、以下のように、当初予想していたのとは異なる結果が得られている。まず、ゲノムワイド関連解析(GWAS)により見出された妊娠糖尿病患者におけるMTNR1B遺伝子の変異から、妊娠糖尿病ではメラトニンMT2受容体の発現が上昇することが示唆されていたことから、膵β細胞ではNASはMT2受容体アゴニストとして作用するという予想をしていたが、NASのインスリン分泌抑制効果は主にMT1受容体を介することが示唆された。そこで今後は、妊娠糖尿病ではMT2受容体の発現が上昇することをふまえて、MT2受容体を過剰発現させたβ細胞株を用いた検討を追加する。また、HPLCを用いてβ細胞株の培養上清中のNASの定量を行ったが、NASは検出できなかった。そこで、NASの前駆物質であるセロトニンを培養液に添加してみたが、それでもNASは検出できなかった。β細胞におけるNAS産生酵素であるAANATの発現は確認しているので、NAS産生のためには何らかの刺激が必要であると考え、現在、種々の刺激条件下におけるAANATの発現変化について検討している。以上のように、当初の研究計画とは部異なる点も出てきているが、新たな研究の発展が見込まれることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
膵β細胞ではセロトニンからNASが生成され、オートクリンとしてメラトニンMT2受容体を活性化することでインスリン分泌を抑制するという機構の証明を引き続き目指す。並行して、この機構が妊娠糖尿病と関連する可能性について検証する。GWASにより見出された妊娠糖尿病患者におけるMTNR1B遺伝子の変異では、MT2受容体の発現が上昇することが示されている。膵β細胞においてNASがインスリン分泌抑制作用を示すことは証明できたが、通常状態では作用発現に高濃度を要し、さらに主に働くのはMT1受容体であることが示唆された。そこで、妊娠期には、NASのインスリン分泌抑制作用にMT2受容体が関与する可能性を検証する。妊娠期の膵β細胞におけるMT2受容体の発現の検討、セロトニン刺激によるMT2受容体発現の変動、及びINS-1細胞にMT2受容体を過剰発現させた時のNASの作用を検討する。また、β細胞株の培養上清中にNASが検出できなかったことから、NAS産生酵素であるAANATによるNAS産生には何らかの刺激が必要であると考え、種々の刺激条件下におけるAANATの発現変化を検討する。AANATの発現上昇が認められた条件下で、再度、HPLCを用いて、培養上清中のNASを検出する。さらに、妊娠期の膵β細胞におけるAANAT及びNASの発現変化を免疫染色及びウェスタンブロットにより解析するとともに、単離膵島ライセート中のNASをHPLCにより定量して、非妊娠期と比較する。以上より、膵β細胞におけるNASの生理学的意義の確立とともに、妊娠期におけるメラトニンシグナル関連分子の変化を調べることにより、NASの妊娠糖尿病との関連について検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
注文した品の搬入遅延により、年度内の搬入が不可能となり、次年度に支払いを繰り越した。
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