研究課題/領域番号 |
18K19756
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
森川 吉博 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (60230108)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 腫瘍壊死因子レセプタースーパーファミリー / 血液―脳関門 / 心的外傷後ストレス障害 / 運動 / ストレス |
研究実績の概要 |
発生過程、及び成獣マウスの中枢神経系におけるTROY発現細胞を同定するため、TROYと中枢神経系の細胞の各種マーカーに対する抗体を用いて、生後0日齢、7日齢、14日齢、21日齢、及び成獣において蛍光免疫二重染色を行った。その結果、生後0日齢の大脳皮質において、TROYはGLAST陽性の放射状グリアに発現していた。生後7日齢から21日齢、成獣の大脳皮質では、GFAP、及びS100β陽性のアストロサイトに発現していた。TROY発現細胞は、NeuN, CNPase, Iba-1, CD31, PDGFRβ陰性であったことから、神経細胞、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、血管内皮細胞、ペリサイトには発現していないことが明らかとなった。 TROYのシグナルの抑制を目的として、可溶型TROYとヒト IgGのキメラ蛋白を過剰発現したトランスジェニック(TG)マウスを作製し、発生過程、及び成獣のTGマウスにおいて、アストロサイトの形態や発現分子(GFAP, AQP4等)、及びBBBの形成や透過性に関連する分子(SSeCKS等)の発現を免疫染色法やウェスタンブロット法により解析した。その結果、成獣TGマウスにおいてSSeCKSやclaudin12の発現量の低下を認めた。 TGマウスの行動解析を行った結果、オープンフィールドテストで不安様行動の亢進や受動的回避テストで恐怖記憶の亢進、音響驚愕反射において過剰な驚愕反応といった心的外傷後ストレス障害(PTSD) 様行動を認めた。さらに、電気ショックを用いた強いストレス負荷と想起体験によるPTSD様行動発現モデルにおいて、野生型(WT)マウスと比較してTGマウスで早期に聴覚性驚愕反射の亢進を認め、このことから、TGマウスは、強いストレスを受けた後、早期にPTSD様行動を発現することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行動解析の結果より、WTマウスと比較して、TGマウスは、強いストレスを受けた後、より早期に過剰な驚愕反射を示し、恐怖反応も増大していた。このことから、TGマウスはWTマウスよりもPTSD様の行動異常を発症しやすい、すなわちストレス脆弱性を有するPTSD発症モデルマウスとなる可能性が考えられた。また、組織学的解析の結果から、TROYがアストロサイトによるBBBの形成に関与し、その破綻がPTSD様の行動異常の発現に関連している可能性が示唆された。恐怖条件付け実験装置の購入予定を変更したため、今年度に予定していたTGマウスの恐怖条件付けテストによる恐怖記憶の検討を次年度に変更したが、次年度の予定であったストレス負荷によるPTSD様の行動異常の発現の評価を先に行っており、おおむね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)BBB形成におけるTROYの役割の検討:TROYは過剰発現させることでその下流のシグナルを活性化できるため、アストロサイト細胞株にTROYを過剰発現させ、TGマウスで異常の認められた分子の発現変化を検討する。 (2)BBBの破綻とPTSD発症の関連性の検討:2-1) TGマウスは聴覚性驚愕反射の亢進が認められていることから、関連する脳領域(大脳辺縁系や前頭前皮質など)の神経細胞の形態学的変化を検討する。2-2)WTマウス、及びTGマウスの恐怖記憶を恐怖条件付けテストにより検討する。2-3)WTマウス、及びTGマウスのストレス負荷前・負荷後3週目、負荷後6週目において、各々のマウスの脳の各部位でトレーサーの漏出を組織学的に解析する。 (3)TROYリガンドの同定とそのPTSD治療への応用:3-1) TROY-Fcを用いてリガンド発現細胞を同定し、同定されたTROY-Fc結合細胞をautoMACSにより分取し、cDNAライブラリーを作製後、発現クローニング法を用いてTROY固有のリガンドのクローニングを試みる。同定できた場合は、in vitroのBBBモデルとしてBBB構成細胞の共培養系を用いて、TROYリガンドの添加により(1)で認められたアストロサイトの形態や機能変化の有無、リガンドの投与量依存的なBBB透過性の亢進の有無を解析する。3-2)TROYのリガンドやTROYの発現が運動(トレッドミルランニングや水泳など)により変化するのかを、野生型マウスにおいて運動強度や時間を変えて検討する。3-3)WTマウスのPTSDモデルに対して、運動負荷や同定したリガンドの脳室内投与を行い、PTSDの行動やBBBの破綻・脳内環境の改善度を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、購入を予定していた恐怖条件付け実験装置が、別の予算で購入することが可能となったため、使用予定額を次年度に繰り越した。 次年度に計画しているTROY固有のリガンドのクローニングとBBB構成細胞の共培養系の確立に、CO2インキュベーターが必要であるが、既存のものだけでは他の研究と並行して進めることが難しいため、新たに購入する予定である。また、次年度は遺伝子導入の実験が多いことから、高効率で遺伝子の導入が可能なNucleofectorの購入も検討しており、それらの費用に充当する予定である。また、次年度に予定している学会発表、来年度中に投稿を予定している論文の校正や論文掲載費用などにも用いる予定である。
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