[1]アストロサイト細胞株にTROYを過剰発現させるとTROY の下流のシグナルの活性化が見出された。また、そのTROY過剰発現細胞において、BBBの形成や透過性に関与する分子であるSSeCKS蛋白の発現の有意な増加を認め、TROYがSSeCKSの発現に関与していることが示唆された。 [2]TROYのシグナルの抑制を目的として、可溶型TROYとヒト IgGのキメラ蛋白(sTROY-Fc)を過剰発現したトランスジェニック(TG)マウスで見られた恐怖記憶の亢進に関与する脳部位の同定のため、場所(海馬と扁桃体が関与)と音(扁桃体が関与)による恐怖条件付けテストを行った。野生型に比べ、TGマウスでは場所による恐怖記憶の有意な亢進を認めたが、音による恐怖記憶の有意な亢進は認めなかったことから、TGマウスの恐怖記憶の亢進には海馬の異常が関与している可能性が示唆された。 [3]ストレス負荷によるPTSD様行動発現の評価を恐怖反応の指標であるすくみ行動により検討した。その結果、野生型に比べ、TGマウスではすくみ行動時間の有意な増加を認めたことから、TGマウスは強いストレスにより発現する恐怖反応がより重篤である可能性が示唆された。 [4] TROYリガンドの局在をsTROY-Fcを用いて組織学的に検討した結果、海馬のGFAP陽性の血管周囲アストロサイトに局在を認めた。 <研究期間全体> 行動解析の結果より、TGマウスはPTSD様行動を発症しやすい、すなわちストレス脆弱性を有するPTSD発症モデルマウスであることが示唆された。また、組織学的解析とin vitroの解析結果より、海馬の血管周囲アストロサイトのTROYリガンドがTROY陽性アストロサイトに結合し、SSeCKSの発現制御によりBBBの形成や透過性の維持に関与し、その破綻がPTSD様行動の発現に関与している可能性が示唆された。
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