唾液腺に発現している39種のマイクロRNAをマーカーにして新しいストレスの診断法を探るために,種々のホルモン処理されたマウスの唾液腺および唾液のマイクロRNAの発現パターンをリアルタイムPCRで分析した。 マイクロ浸透圧ポンプを用いたアドレナリンの連続投与によって交感神経のみを長期間促進した場合,唾液腺のマイクロRNAは変化しなかった。 視床下部が慢性ストレスを認識すると抗ストレスホルモン(糖質コルチコイド)が分泌されることはよく知られている。デキサメタゾンをマウスに投与すると唾液腺のmiR-29b-3pが増加し,let-7c-3pが著しく減少した。睾丸摘除マウスへのテストステロンの投与は唾液腺のmiR-21-5pおよびmiR-141-3pを増加させたが,miR-29b-3pおよびlet-7c-3pに影響を示さなかった。 分泌唾液中のマイクロRNAを測定したが,データの分散が非常に大きく傾向を分析できなかった。この分散は試料の測定誤差ではなく実験動物の個体差によるもので,唾液採取法の改善が必要である。ヒト唾液も試みたが同様な結果だった。唾液の代替実験として血清中のマイクロRNAを測定した結果,デキサメタゾン投与によりmiR-16-5pおよびmiR-451aが著しく増加した。デキサメタゾンによる唾液腺組織と血清のマイクロRNAの変化は相関してなかった。 結論として,交感神経の促進だけでは唾液腺のマイクロRNAパターンは変化しない。唾液腺組織のmiR-21a-5pおよびmiR-141-3pの発現パターンはアンドロゲンの影響を受けるが,let-7c-3pおよびmiR-29b-3pは影響を受けない。したがって,let-7c-3p に対するmiR-29b-3pの比率の増加は視床下部を介したストレスの選択的なマーカーとなる。さらにアミラーゼとは異なり,交感神経のみの促進と区別することができる。
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