研究課題
脂質をエネルギー基質として利用する能力である脂質代謝能力には性差、身体活動量、心肺体力などにより個人差があり(Venables et al., 2005)、生活習慣病のリスクと関連する(Rosenkilde et al., 2010)。脂質代謝能力の個人差には遺伝子も影響するが、脂質代謝能力と関連する遺伝子が生活習慣病と関連するかは不明である。そこで早稲田大学の卒業生およびその配偶者を対象とした観察型コホート研究“WASEDA’S Health Study”に参加した中高年男女835名のデータを用いて、脂質代謝能力と関連する遺伝子と生活習慣病の罹患率との関連を検討した。ゲノムワイド関連解析(GWAS)で脂質代謝能力と関連する可能性が示された上位10個の遺伝子多型を用いて多遺伝子リスクスコア(polygenic risk score; PRS)を算出した。GWASで計算された回帰係数を用いて各遺伝子多型のリスクを重み付けした。PRSを用いて参加者を三分位に分け、ロジスティック回帰モデルを用いてPRSが低い第1三分位群を基準にした場合の他の群の高血圧、糖尿病、脂質代謝異常症の多変量調整オッズ比を算出した。性別、年齢、BMIを調整変数としてモデルに投入した。高血圧の有病者数は326名、糖尿病の有病者は44名、脂質代謝異常症の有病者は362名であった。PRSが低い第1三分位群を基準にした場合の他の群の多変量調整オッズ比は高血圧では0.65, 0.70 (トレンド検定=0.09)、糖尿病では0.81, 0.74 (トレンド検定=0.43)、脂質代謝異常症では0.84, 0.85 (トレンド検定=0.38)であった。本研究の結果、脂質代謝能力の関連遺伝子は高血圧の発症リスクとも関連する可能性が示唆された。今後、GWASの解析対象者数を増やして更なる検討を実施する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は中高年男女コホートを用いて、横断研究で脂質代謝能力と関連が強い疾患や危険因子を推定し、縦断研究で脂質代謝能力の変化が生活習慣病の有病率および危険因子へ与える影響を明らかにすることである。2019年度は222名の新規測定を実施し、1379名のコホートが完成した。測定機器入れ替えによる測定中止期間の影響もあり、目標とする1500名までは達しなかったが解析に十分に耐えうる人数のコホートが作成された。完成した1379名のコホートを用いて横断解析により脂質代謝能力と関連が強い疾患や危険因子の検討および遺伝子解析を現在実施している。ここまでの解析において、脂質代謝能力と関連する遺伝子は高血圧のリスクと関連する可能性が推察された。これまでに脂質代謝能力と最も関連すると報告されている疾患は糖尿病であり、本研究の知見はとても興味深い発見である。横断解析の研究結果は2020年度中に学会発表を行い、論文執筆の予定である。それゆえ、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
2020年度も昨年度までと同様に早稲田大学の卒業生を対象としたコホート研究 (WASEDA’s Health Study)と連携してデータの測定および試料の採取を行う。2020年度は1年目に測定した341名の5年後測定と並行して新規参加者の測定を行う。測定と並行して、これまでに測定したデータを用いて横断解析を実施する。5年目までの測定で完成した1379名のデータを用いて、脂質代謝能力と生活習慣病の有病率および危険因子との関連を横断的に検討する。この結果は9月に鹿児島県にて開催される「第75回体力医学会」にて学会発表を行う。その後、学会発表で得られた助言を参考に、脂質代謝能力と生活習慣病の有病率および危険因子との関連を再度検討し、研究成果を論文としてまとめ上げる。
本研究課題は早稲田大学の卒業生を対象としたコホート研究 (WASEDA’s Health Study)と連携して実施している。2019年度は磁気共鳴画像装置の機器入れ替えに伴い春先に測定を行えなかったため、測定および解析に掛かる費用負担が当初予想よりも少なかった。また、遺伝子多型解析のための遺伝子の抽出が予定より滞っており遺伝子多型解析に掛かる費用が少なかったため次年度使用額が生じた。生じた次年度使用額は2020年度の測定に掛かる費用および遺伝因子の解析費用として使用予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件)
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