研究課題/領域番号 |
18K19769
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
浅原 哲子 (佐藤哲子) 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 研究部長 (80373512)
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研究分担者 |
菅波 孝祥 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (50343752)
小谷 和彦 自治医科大学, 医学部, 教授 (60335510)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | ミクログリア / 単球機能 / 認知症 / サルコペニア / 腸脳筋連関 / 生活習慣病 |
研究実績の概要 |
本研究では、加齢や生活習慣病に伴う腸内環境の悪化が、単球・ミクログリアの極性悪化をもたらすことで、腸を起点とした脳や筋肉との病的連関が発生し、認知症やサルコペニアが発症・進展するとの可能性を検討する。それにより加齢・生活習慣病による多臓器障害の発症・進展の分子機構の解明に挑戦する。 今年度は、老化促進による認知症発症モデルマウス(SAMP8)及び対照マウス(SAMR1)を用い、通常食又は高脂肪食を給餌し、体組成、脳内炎症、骨格筋や腸内環境への影響を検討した。その結果、対照マウス・認知症モデルマウスいずれも、通常食群に比し、高脂肪食群では体重増加とインスリン抵抗性を認めた。また、単球・ミクログリアの極性(炎症性M1/抗炎症性M2)指標として、血清中のサイトカイン濃度を検討した結果、特に認知症モデルマウスの高脂肪食群ではTNF-αやIL-6レベルが亢進した。さらに、脳内炎症レベルについても、認知症モデルマウスの高脂肪食群では海馬におけるTNF-αの亢進を認めた。これらにより、特に認知症モデルマウスにて、高脂肪食による末梢・中枢における単球・ミクログリアのM1/M2極性の悪化が示唆された。 骨格筋については、老化に伴い萎縮する速筋である前脛骨筋の量が、認知症モデルマウスにて、高脂肪食の有無によらず対照マウスより減少した。また、認知症モデルマウスの前脛骨筋における骨格筋萎縮関連因子・マイオスタチンの発現レベルは、対照マウスに比し、高脂肪食の有無いずれにおいても減少した。よって、認知症モデルマウスにおける骨格筋萎縮の亢進には、筋のマイオスタチン(増殖・分化抑制系)の関与は小さく、別の経路(筋分解経路等)の関与が示唆された。 さらに、各マウスにおける腸内環境を検討するため、採取した糞便を用いメタゲノム解析を施行した。現在、当該結果と糖代謝や炎症指標との関連について、解析を推進している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)対照マウス(SAMR1)及び老化促進による認知症発症モデルマウス(SAMP8)を用い、高脂肪食有無における体組成や糖代謝への影響を検討し、いずれのマウスにおいても高脂肪食による体重増加・糖代謝悪化を認めた。 2)認知機能低下と密接に関連する脳内炎症の検討から、特に認知症モデルマウスでは高脂肪食によりTNF-αレベルの亢進を見出した。さらに、末梢においても、当該マウスの血清中TNF-αやIL-6レベルが亢進した。これらの知見は、加齢や肥満・糖尿病とミクログリアや単球のM1/M2極性悪化が密接に関連することを示唆しており、ミクログリア・単球の極性悪化の原因分子の検索において重要な手がかりとなるものである。現在、さらに詳細な脳内炎症レベルの検討を推進している。 3)各マウスにおける骨格筋の量と骨格筋萎縮関連液性分子のレベルを検討した。特に老化に対し高感受性を示す速筋・前脛骨筋は、対照マウスに比し、認知症モデルマウスにおいて減少することを認めた。一方、骨格筋萎縮作用を有する液性因子・マイオスタチンレベルは、対照マウスよりも認知症モデルマウスにおいて低値であった。これらのことから、認知症における前脛骨筋の萎縮には、骨格筋のマイオスタチン(増殖・分化抑制系)よりも別の機序(骨格筋の分解系等)の関与が示唆され、当該機序の同定・解析により骨格筋萎縮の分子機序の解明に繋がると考えられる。そこで、現在、骨格筋の分解系の関与の検討や、代謝等に関わる遅筋の形質についても詳細な検討に取り掛かっている。 4)腸内環境の変化を明らかにするため、各マウスの糞便を対象にメタゲノム解析を施行した。現在、結果についての詳細な解析を進めており、菌叢や代謝物の変化と上記1)~3)の知見との関連を検討することで、加齢や生活習慣病に伴う脳-筋-腸の病的連関の解明に繋がることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、初年度の知見に立脚し、対照マウス(SAMR1)、老化促進による認知症モデルマウス(SAMP8)を対象に、高脂肪食による脳内炎症、骨格筋萎縮、及び腸内環境に対する影響を詳細に検討する。それにより、加齢や生活習慣病に伴う脳-筋-腸の病的連関の分子機構を明らかにする。 A. 脳内炎症について、M1・M2サイトカインレベルの詳細な検討を行い、さらに、免疫組織学的アプローチにより、活性化ミクログリアの集積を検討する。また、我々がこれまでミクログリア機能悪化や認知機能低下との関連を示唆してきた細胞表面分子・TREM2について、脳内各部位における発現レベルや血中の可溶型TREM2値を検討し、高脂肪食による脳内炎症・認知機能低下の機序を検討する。 B. 骨格筋について、前脛骨筋萎縮における筋タンパク質分解系の関与を検討する。特にユビキチン・プロテアソーム系タンパク質分解経路として、筋特異的ユビキチンリガーゼ(Atrogin等)のレベルを検討し、認知機能低下に伴う骨格筋萎縮との関連を明らかにする。また、代謝や体重維持(抗重力)に関わる骨格筋である遅筋・ヒラメ筋についても、萎縮レベル、増殖・分化抑制系やタンパク質分解系の関与を同様に検討する。 C. 各マウスの糞便を対象に施行したメタゲノム解析について、結果の解析を推進し、加齢や肥満・糖尿病に伴う腸内細菌叢・代謝経路の変化を明らかにする。これらの結果と、上記・脳内炎症や骨格筋萎縮との関連を検討し、脳-筋-腸の病的連関の解明に繋げる。 D. 上記の検討と伴に、高脂肪食負荷の有無における単球の網羅的遺伝子発現解析等を施行し、加齢や肥満・糖尿病に伴う単球・ミクログリアの極性悪化に最も関連の深い腸内細菌代謝物のスクリーニングと同定に繋げる。得られた知見を、申請者らによる糖尿病・肥満症コホートを対象としたトランスレーショナルリサーチへと発展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度第4期辺りより実施予定であった、動物実験に必要な資料(抗体、細胞障害能アッセイキットなど)の購入が次年度に跨いだ点。また初年度は、研究補助の謝金が発生しなかった点。以上より、次年度使用額が発生した。 次年度使用計画: 消耗品:実験動物関連(抗体、検出キット、高脂肪職の特殊資料、細胞障害能アッセイキット)1400千円、分子生物学関連試薬600千円、代謝関連測定試薬300千円、培養関連試薬200千円、旅費:100千円、謝金:300千円、その他:100千円
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