研究課題/領域番号 |
18K19783
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西村 直志 京都大学, 情報学研究科, 教授 (90127118)
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研究分担者 |
新納 和樹 京都大学, 情報学研究科, 助教 (10728182)
吉川 仁 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (90359836)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | isogeometric解析 / 境界積分法 / Maxwell方程式 |
研究実績の概要 |
当初はLaplace方程式やHelmholtz方程式等の簡単な問題でisogeometric 境界積分法とNystroem法の性能比較を行う予定であったが,研究を進めるうちに,Helmholtz方程式を特殊ケースとして含み,より高度かつ実用上も有用な3次元Maxwell方程式で同様な研究を行う見通しが立ったので,Maxwell方程式を対象としてコード開発を行うこととした.Maxwell方程式のisogeometric法の先行研究として,電界積分方程式(EFIE)をGalerkin法で解く方法が知られているが,isogeometric法では正しい正則性を有する近似関数の使用が可能になるので,MFIEはもちろん,EFIEにおいても選点法の使用が可能になる.これは従来のmoment法において必須であった2重積分の評価が不要になる事を意味し,実用上の意義が大きい.そこで,幾何形状には2次Bスプライン,表面電流には1次x2次のBスプラインによるHdivの基底関数を用いてEFIE,およびMFIEの選点法境界積分法を定式化した.完全導体による電磁波散乱問題を解きEFIEとRWGを用いたmoment法の解と比較を行ったところ,表面電流に関してほぼ同一の解を得ることができた.しかも,isogeometric 選点法では,moment法と比較して同程度の精度を得るために必要な未知数の数が1桁程度少ないこと,従って計算時間も大幅に短縮できることが分かった.さらに,低周波問題のEFIEでは,トーラス状の散乱体の問題において低周波破綻が起こり得るが,RWGを用いたmoment法ではこのことが顕著に現れる一方,isogeometric選点法では低周波問題でも比較的高精度な解析が可能であった.他方,isogeometric法を用いたMFIEは低周波において精度が低下する傾向が見られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究では,当初計画と比較して大きな方向性自体は変わっていないが,対象をMaxwell方程式の積分方程式に変更し,当初計画より高度な内容となった.このため,得られたisogeometric境界積分法の利用価値は非常に大きなものとなった.実際,得られた数値計算法は,従来法に比べて,効率,精度とも非常に良好であることがわかった.以上の事から,当初の見込みを越えた研究成果を得ることができたと考えている. 一方,滑らかな幾何学形状近似を伴うNystroem法の開発は終了しておらず,当初の研究目的であるNystroem法とisogeometric法の比較は今後の課題となっている.この点においては予定より遅れていると言えるので,これらを総合的に評価して(2)おおむね順調に進展しているとの判断とした.ただし,isogeometric境界積分法の開発を通して既に滑らかな幾何形状近似や積分点の発生などのコードは作成済みであり,今後これらを利用しつつNystroem法を開発することは比較的簡単に実行できるものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究目的であるNystroem法とisogeometric法の比較検討を行うことが当面の重要な研究課題であると考えられる.このため,今後できるだけ早い時期に3次元Maxwell方程式のMFIEのNystroem法による解法をコード化し,これをisogeometric選点法と性能比較する.続いて,同様な研究をEFIEに対しても行う.EFIEのNystroem法はMFIEに比較すると複雑であると考えられるが,研究の要となる局所補正はisogeometric選点法の実装に際して使用した積分を利用して実装することが可能であると考えている.これらの研究においては比較的簡単な形状の散乱体を想定しているが,選点法を用いたisogeometric法を実用化するためには,複雑な境界における幾何学的モデリングやHdiv基底の生成に関連してさらに研究を行う必要がある.一方,Nystroem法では基底の生成が必要でないため,複雑な散乱体の解析において有利であるのかもしれない.以上を考慮して,今後の研究においては簡単な形状を主な研究対象としつつも,複雑なモデルへの拡張の可能性を意識して研究を進める方針である.なお,当初予定していた角のある問題や境界条件の変わる点での解の特異性を考慮したNystroem法の開発は,開境界に対するEFIEを用いて検討することにする.最後に,波動問題におけるNystroem法についてはMaxwell方程式で検討すると複雑になりすぎるため,当初の想定どおり,2次元波動方程式を用いて実施する計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定を幾分変更し,研究対象をMaxwell方程式の積分方程式を中心とする内容とした.このため,当初想定していたより理論中心の研究となり,数式の展開などに多くの時間を使ったために予定していたほどに計算資源や数値計算補助のための人件費・謝金の支出を行うことがなかった.この結果,次年度使用額が生じたが,次年度には多くの数値計算を行うことが想定されるので,スーパーコンピュータ使用料や,数値計算補助等に対する謝金などにこれを使用する計画である.
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