近年、スマートフォンの生体認証技術が普及し、指紋認証と顔認証が主流となっている。これらと同等の認証率を達成できる他の生体情報による認証技術の確立は今後のさらなる情報サービスの拡充により必要不可欠である。ここで,ヒトの耳介についてもヒトそれぞれに形状の違いによる特徴があり、個人認証の研究対象になっている。これまでにも、耳介の音響伝達関数(PRTF: Pinna Related Transfer Function)を利用した認証システムが研究されている。しかし、認証装置の位置が認証の度に変動するため、認証精度が低下することが問題視されてきた。そこで本研究では、PRTFを用いたマルチモーダル個人認証ならびに音響時系列データを用いた個人認証を提案し、その有効性を検証してきた。具体的には、PRTFを利用しない音響情報として、反射音のスペクトロ グラムを用いた個人認証システムについて検討を行った。それを実現するに当たり、個人認証に最適な音響データの前処理や機械学習モデルについては未だ不明であったため、入力データとしてスペクトログラムや時系列データを用いる耳介音響個人認証システムを3種類検討した。そして、従来検討してきた認証方法との比較検討を行った。その結果、PRTFのみを用いたシングルモーダル認証における誤認証率は9.3%もあったのに対し、音響時系列データを用いた認証システムでは誤認証率をほぼ0%まで低減できることを実証した。したがって、提案する認証方式は、各測定における位置の変化を補償し、ロバスト性を向上できることが明らかとなった。
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