研究課題/領域番号 |
18K19794
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
舘野 高 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (00314401)
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研究分担者 |
村上 修一 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 主幹研究員 (70359420)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 機械的振動 / 脳刺激法 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,非侵襲的に中枢神経系を刺激して,中枢系や末梢系に神経信号を正確に送信する新技術の開発を目指している.その実現に向け,ミリサイズの脳領域に対して,超音波(ウルトラサウンド)の機械的な振動を用い,低侵襲的に神経活動を誘起する方法をデバイスレベルから開発することを目的としている.さらに,電気生理学的実験や光学的計測によって,試作デバイスと装置の性能をモデル動物の脳刺激で実験的に評価する.最終的に,ヒトに医療応用するために,空間高分解能の特性をもつ中枢神経系の低侵襲性の刺激システムを構築する基盤技術を確立することを目的としている.研究課題全体では,その実現に向けて,今年度は,次の3つの小課題を実施した.
【課題1】昨年度の数値計算結果に基づき,微細加工技術を用いて脳刺激に応用する超音波微小デバイス試作し,基本性能を評価した.【課題2】超音波振動に誘発される神経細胞活動の機序解明するために,脳切片の神経活動を計測するin vitro実験系を構築し,神経刺激に適した超音波刺激の物理パラメータを探索した.その結果,超音波刺激で神経細胞の活動誘発が可能な物理パラメータを得ることができた.【課題3】経頭蓋用超音波トランスデューサを用いたin vivo実験系を構築し,脳刺激に適した超音波刺激の物理パラメータを探索した.その結果,超音波刺激で脳活動の誘発が可能な物理パラメータを同様に得ることができた.本年度研究の実施によって,各課題の実験系が構築され,それらを用いて本格的な実験に取り組む準備が整ってきた.また,学会大会や研究会等で,各課題における結果の一部を研究成果として報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は実施期間2年目であり,昨年度の数値計算による設計データを基に,超音波デバイスを試作し,動物実験計測に基づく評価系を主に構築した.また,その評価系で超音波刺激の物理パラメータを探索した.
[課題1]超音波領域に共振周波数を有する微小アクチュエータ構造を製作するため,その構造の基礎的検討を行った.まず,昨年度の数値計算結果に基づき,シリコン基板上に圧電材料薄膜をもつ片持ち梁型構造を製作した.圧電材料デバイス感度を計測するため,ダイアフラム型ではなく,製作と評価が容易な片持ち梁型を最初に試作した.その結果,超音波領域に共振周波数を有する振動デバイスを試作することができた.しかし,その後に試作予定であったダイアフラム構造のトランスデューサは,新型コロナウイルス感染拡大に伴い,共同研究者の施設で訪問作業が困難となり,設計段階で現在停止している.このため,当初の計画より遅れているが,次年度課題として,ダイアフラム型トランスデューサの試作を行う予定である.[課題2]マウス脳組織切片を対象に,市販トランスデューサの先端に導波路を独自に試作し,ガラス基板上に載せた脳切片を下面から超音波刺激する実験系を構築した.脳切片の活動計測に電気生理学的計測法を用い,誘発神経活動を測定した.また,超音波の周波数で脳活動を誘発する刺激パラメータを探索し,刺激に有効な物理パラメータを得ることに成功した.その結果の一部は外部の所属学会大会で報告した.[課題3]生体脳を対象に,市販の単一トランスデューサを利用し,経頭蓋刺激実験系を構築した.特に,大脳皮質を局所的に経頭蓋刺激する目的で,トランスデューサに適合した実験用導波路を3Dプリンタで試作した.また,聴覚中枢系を直接刺激する超音波物理パラメータを探索した結果,聴覚末梢系の神経応答を誘起せずに聴覚皮質誘発応答を得る刺激条件を実験的に得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究期間の最終年度となるため,超音波振動微小トランスデューサのデバイス試作に重点を置いて研究課題を実施する.また,今年度に構築した,in vitro脳切片およびin vivo生体脳の超音波刺激実験系を用い,神経活動の誘発機序の解明に向けた動物実験を行う.具体的には,次の3つの小課題を実施する.
[課題1:超音波脳刺激用の微小トランスデューサのデバイス開発] 本年度の基礎的な評価データを基に,シリコン基板上に圧電材料薄膜を有するダイアフラム構造を設計し,超音波刺激が可能なトランスデューサデバイスを試作し,その後,物理特性を評価する.また,昨年度に作成した評価実験系を用いて,神経活動を誘発させる物理条件を達成しているかを動物実験によって評価する.[課題2:開発デバイスを用いた脳切片誘発刺激の応答評価] In vitro脳組織切片を対象にして,課題1で試作したデバイスを用いて,超音波領域周波数で機械的に組織表面を振動させる.その超音波振動刺激に対して,光学的測定法を用いて神経活動を計測する.誘発応答の評価を通じて,再度,デバイスの構造や刺激パラメータを検討する.[課題3:経頭蓋用超音波トランスデューサを用いた誘発応答機序の解明]本年度に構築した,経頭蓋刺激用トランスデューサを利用した実験評価系を用いて,神経活動の誘発応答の生成機序を明らかにする.特に,局所的な経頭蓋刺激による大脳皮質誘発応答の機序に焦点を絞って,有効な脳刺激法となる物理パラメータを探索するとともに,その応答メカニズムを明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に研究成果内容を外部発表するため講演登録していたが,新型コロナウイルスの感染拡大に伴って学会の大会と研究会の開催が中止となり,大会と研究会の参加旅費が不要となった.このため,今年度の研究助成金に残額が生じた.残額である次年度使用額については,研究結果の発表のために参加する大会と研究会の参加費および旅費として,次年度に利用する予定である.また,旅費等に利用できない場合には,外部発表手段として投稿論文の執筆に必要な経費と出版費用に利用する予定である.
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