本年度は水中海遊システムの改良と性能評価を行った. まず,外光による影響の低減,キャプチャ可能範囲の拡大,安定的なトラッキングの実現という3点を目標に,昨年度から導入したモーションキャプチャカメラのパラメータ調整やカメラ配置の最適化,マーカ配置の最適化を行った.外光の影響については,午前と午後では外光の入射角が異なるため,どちらの条件でも影響が最小となるパラメータを同定した.キャプチャ範囲の拡大では,利用したプール底の傾きも考慮したカメラ配置をシミュレーションし,現地での微調整を繰り返すことで,カメラ3台という最小構成において,従来の2.5m x 2.5mから4m x 4mに拡大することが可能となった.トラッキングでは,ユーザの呼吸時に出る気泡がマーカを遮ってしまう問題が発生していたため,トラッキングエラーが生じ難いマーカ配置となるよう再設計を行った.以上から,水中におけるモーションキャプチャの性能が大幅に向上した.また,海中シミュレータに負荷軽減処理を追加し,フレームレートを70Hz以上に常に保てるようになり,海中体験の質が向上した.昨年度から検討していたユーザの身体引き戻し機構では,パッシブ型の試作機を開発し,水中での動作を確認することができた. 生体情報を計測するセンサについては,水中でのリアルタイム計測が可能であることを確認した.ただし,データ計測の安定性については課題が残った. 以上から,研究の根幹である水中海遊システムの基礎が構築できた.これにより,これまで困難だった低重力下での知覚実験や海中・宇宙など特殊環境下での訓練が容易に実現可能となる道筋が見えた.しかしながら,コロナ禍等の影響でプールを使用できる期間が短く,システムの検証に時間を要したため,被験者を用いた具体的な検証実験には至らなかった.
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