研究課題/領域番号 |
18K19798
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
原田 悦子 筑波大学, 人間系, 教授 (90217498)
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研究分担者 |
葛岡 英明 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (10241796)
南部 美砂子 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 准教授 (10404807)
角 康之 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (30362578)
須藤 智 静岡大学, 大学教育センター, 准教授 (90548108)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 認知的加齢 / 対話支援 / 会話の構造 |
研究実績の概要 |
本研究は,高齢者にとって,若年成人との対話が様々な状況において大きな支援となっていることを前提として,こうした「高齢者支援のための,高齢者-若年成人対話」において,若年成人が請け負っている認知的負荷(若年者対話負荷)の存在とその構造を明らかにし,それを軽減することを目的とした対話支援システムを創出することを目的としている.同時に,こうした対話支援システムの導入によって対話がどのように変化するかを検討することにより,人-人間の対話において対話の前提要件としてどのような認知的処理が行われており,その要素間でどのような相互作用があるのかを構成論的に検討することが可能となると考え,探索的に研究を進めている. 2019年は,認知心理学・認知科学による対話分析斑では,1)そもそも高齢者の会話において何が加齢によって変化をしているのかを明らかにするため,最もシンプルな「話す,聴くの組合せ課題」としての追唱課題をとりあげ,その加齢変化と訓練効果を介してのメカニズムの検討を行い,追唱課題エラーの分析から認知的加齢の影響が対話マネジメント機能との二重課題性により顕在化することの示唆を得た,2)投資ゲーム課題を用いた「他者に対する信頼性の学習」を対象として,若年成人との対話がいかに高齢者の学習を支援するか,課題達成の面から検討し,加齢による動機づけシフトを補償する可能性を示した.支援システム班では,3)特定の課題場面に埋め込まれた対話を聞くことができるシステムにより,対話の聴き手はどのように課題達成支援を受けることができるかを明らかにする研究,ならびに4)対話相手の状況を多様に把握するためのシステム構築とその効果研究,を行った. さらに両班共同での対話実験についてもパイロット実験を行い,遠隔対話支援システムを介した対話について,聴き手の年齢群の効果が及ぼす影響の検討に着手した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では3班(認知心理学・認知科学的対話分析班,担当 南部・須藤・原田:支援システム-視覚運動的情報支援班,担当角;支援システム-聴覚・蓄積型情報支援班,担当 葛岡)に分かれての研究活動を進め,班間での情報共有・意見交換は随時二班間で行った.対話分析斑では,より実際的な課題遂行場面に近い実験課題での高齢者-若年成人の会話データを収集し,まずは課題達成から見た支援の程度を確認しつつ,今後「実際の対話で何が支援されているのか」「その際に,支援者側の若年成人にとっての認知的コストはどこにかかっているか」を検討するためのデータ分析における視点を整えてきている.一方,支援システム班ではそれぞれの対話支援の方式について鍵となる支援の在り方について,実際の支援システム構築,WoZ方式実験による検討,あるいはパイロット的な評価実験を通して検討を進めてきている. 当初案では,2019年度中に3班合同で構築したシステムを利用した対話実験を実施する計画であったが,いくつかの環境的要素から実験が困難となったことを受けて2020年度に実施することとし,その間に「いわゆる実験のための実験的対話」ではない対話データを対象とし,実生活の中での「高齢者支援につながる」対話をベースとした実験課題での検討を重要と考え,よりよい形での実験実施を検討している.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2020年度には,支援システム班からの提言を受けて,また視覚運動的情報支援,聴覚・蓄積型情報支援に基づく対話支援システムのプロトタイプ提案をうけ,若年成人-高齢者間の支援関係を最大にし,同時に支援者である若年成人側の負荷を最小にするようなシステム案を議論していく.支援の対象となる対話要素ならびに方向性によって,必要とされる支援システムの構成は変化し,またその評価のための課題,評価尺度も異なってくる.本年前半は各班のこれまでの研究成果を共有しながら,総合的な評価実験を行っていくためのシステム構築を検討し,またその際の評価方法の構成も行っていく. また,現在の新型コロナウィルス感染拡大予防を前提とした世界的な社会・生活状況の変化(新たな生活様式)の中で,いかに人を対象とした実証実験が可能であるかの検討を行うこと,さらには,実際に今後さらに必要性が増してくると考えられる,多様な高齢者を対象とした遠隔からの支援のための遠隔対話支援の在り方という新しい要因も考慮に入れ,研究推進を行っていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
協働的に2019年度に実験的な対話支援システムを構築して実験を行う予定であったが,同一研究組織に所属していたメンバー1名が他大学に19年4月に異動をしたため,新たな共同研究体制を作るための準備期間が必要となった.また対話実験を実施する予定であった実験室が含まれる建物が耐震補強工事の対象となったため,研究計画の変更を余儀なくされた.そこで,19年度は予備的な実験実施を行うに留め,20年度に改めて実験を行うこととした.
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