本研究は食材を材料とした光学系を開発してその応用展開を目的とするものであり,具体的には以下の研究を実施した. 2019年度は,(a)寒天製レンズの成形手法を開発し,焦点距離が40mm程度の試作品を作製し,(b)その光学特性評価から同じ焦点距離と口径の市販ガラス製レンズに比べて半分程度の光学性能をもつことを確認した.また,(c)凹レンズとして機能する寒天製レンズも開発し,複数の寒天製レンズを組み合わせた光学系としてアフォーカル系を構築し,実験からその機能を確認した.(d)光学系として機能されるときにレンズと絞りが一体であると利便性が高いため,レンズとして機能する光透過層と絞りとして機能する羊羹による光吸収層とを一体成型する手法を開発し,絞りを内蔵する寒天製レンズを構築した.さらに,寒天の乾燥に弱い欠点を改善する,飴による光学素子形成手法を開発し,飴製再帰性反射材を試作した. 2020年度は,(e)寒天によりレンチキュラーレンズの一次元アレイを形成する手法を開発し,それが可食の3D表示プレートに応用可能であることを実証した.次に,(f) ヒーター付き真空チャンバーを利用して,混入する気泡を除去した反射強度の強い飴製再帰性反射材を開発した.さらに(g)飴製再帰性反射材を2つ重ねるようにして接合することで,再帰性反射面を保護し,水分の多い対象の上に載せても再帰性反射機能を失いにくい二層構造の飴製再帰性反射材を開発した.また,(h)ブラジルの研究グループと共同で,寒天製の光ファイバーが実現可能であることを実証した.(i)飴を素材としたマイクロレンズアレイの開発に成功し,さらにそれを基準マーカーに利用することで,ARマーカーより高精度な可食基準マーカーが実現できることを実証した. 以上の研究を通じて食材を材料とする可食光学系の多様な応用可能性を示すことに成功した.
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