本研究の目的は、書字座標系の決定のメカニズムの解明を通じて、身体表象と空間表象の行動への統合過程を明らかにすることである。 当該年度は、特に、これまで我々の実験結果から得られた、「運動出力のペン先の空間位置と、視覚イメージの投影される平面(モニタ)の位置を、客観的な座標系(外部座標系)の位置ではなく、主観として空間のどこにあると認識しているかが書字動作にクリティカルである」という、主観的な身体位置感覚に基づく高次の運動制御機構の存在の仮説を検証することを目的とした。例えば、通常の書字動作において、ペン先で書字しようとする場合と、ペン尻で書字しようとする場合とで、文字表象の出力結果が異なることが起こる。このために、書字面やモニタの位置などを自由に設定でき、また、身体感覚錯覚を引き起こすことで、身体位置感覚や身体所有感覚を操作できる、仮想現実(VR)空間での書字実験環境を構築することとした。 具体的には、視線計測機能付きのヘッドマウントディスプレイ(HTC VIVE Pro Eye)および3次元触覚/力覚デバイス(3D Systems Touch)を導入し、VR空間での書字実験環境の構築を進めた。VR空間の構築には、映像や音のリアルタイム処理を行うゲームエンジンソフト(Unity Technologies)を用いた。これにより、VR空間で、書字面やモニタの位置などを自由に設定できるようにした。またアバターを通しての身体感覚錯覚を利用することで、“視点”(身体中心座標系)を設定できるようにした。さらに、書字中の手指、ペン先、ペン尻の三次元軌道を収集できるようにした。
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