研究課題/領域番号 |
18K19819
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北澤 茂 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (00251231)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | カクテルパーティー効果 |
研究実績の概要 |
私たちは、大勢の人が話しているパーティーでも相手の言うことを聞き取れる。脳はどのようにして声を聴き分けているのか。「カクテルパーティ問題」として50年以上研究されてきたにもかかわらず、手法上の制約から「私たちの脳は聞きたい音声にト ップダウンの注意を向けているらしい」ということしかわかっていない。本研究では、音声認識の能力を獲得した多層人工神経回路とヒトの脳の活動を詳細に比較して、カクテルパーティ問題の謎を解く。 本年度は研究の第一段階の多層人工神経回路の構築に取り組んだ。まず、多層人工神経回路については、既存のラベル付き単語音声データベースを用いて、単語弁別を行うように6層(入力層+4個の畳み込み層+出力層)の人工神経回路を誤差逆伝播法で学習させた。得られた人工神経回路の畳み込み層1から4の人工神経の応答特性を調べたところ、畳み込み層2で周波数に特異的な応答に加えて、振幅の周期的変化に対する応答が出現することが明らかになった。畳み込み層4では周期特異的な応答はむしろ減少した。一次聴覚野では、周波数応答に加えて振幅変調の周期に対する応答が存在し、その周期が2次聴覚野に近づくにつれて延長すると報告されている(Herdenerら, 2013)。標準的な音声認識の能力を獲得した多層人工神経回路の階層構造が、ヒトの脳の1次聴覚野(コア) ―2次聴覚野(ベルト・パラベルト)に至る階層構造と類似することを示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一段階では、標準的な音声認識の能力を獲得した多層人工神経回路の階層構造が、ヒトの脳の1次聴覚野(コア)―2次聴覚野(ベルト・パラベルト)―聴覚性言語野(ウェルニッケ野)に対応するかどうか、を明らかにすることを目的としていた。本年度はこの第一段階をほぼ達成する成果を挙げた。以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
第二段階では、第一段階で用いた標準的な人工神経回路の構成を基本として、同時に複数の音声入力を与えて学習させることで、カクテルパーティ問題を解く人工神経回路を育てる。二人から始めて、どこまでのヒトの声の重なりに耐えられるのか、の限界も明らかにする。 第三段階では、第二段階で作成したカクテルパーティ問題を解く人工神経回路と脳活動の信号それぞれに、独立成分分析を適用して、2系列の信号情報を分離して、それぞれの信号の分布を明らかにする。これらの解析を通じて、どのレベルで2系列の信号の分離が実現されて、どのレベルでいずれか1つの音声の選択が行われるのかが明らかになる。つまり、60年余りの歴史を持つカクテルパーティ問題の神経基盤が解明される。
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