本研究の目的は、視点を連続に動かしても錯視が起き続ける不可能立体の可能性を追求し、その例を作ると同時に、それを安全な道路構造を判断する一つの基準作りへ応用することである。本年度は、今までの成果を総合して整理すると同時に、新しい視覚効果についても研究した。 道路カーブの鋭さの誤認に関しては、数理モデルを具体的な事故多発場所へ適用し、ドライバーの知覚のズレを数値で示すことができた。また、都会の高速道路などに設置されている遮音壁はカーブの視界を遮り、トランスキー錯視によってカーブを緩く感じる要因の一つとなることも指摘した。 視点を動かしても錯視が起き続ける現象については、立体の影もその要因になることを見つけた。立体自体は、視点を動かすと姿を変えるが、地面や壁へ投影された立体の影は平面図形として期待される変形しかしない。そのため、変身立体錯視の視線方向の一つを照明方向と一致させると、視点に依存しないで変身し続ける錯視効果が得られる。 さらに、立体と絵を混在させることによっても視点を動かしても消えない錯視を作ることができた。この場合は、立体部分は錯視の起こらない素直な立体で作る。その結果、絵の部分も立体に見えるという視覚効果が生まれて、視点を動かしたとき期待に反する変形が知覚され続ける。この視覚効果を利用した作品例の一つは、国際ベスト錯覚コンテスト2020で優勝を獲得した。 これらを含む3年間の成果を、それ以前から継続している不可能立体錯視の研究成果と一緒に体系化した結果を、不可能立体の樹形図の形にまとめることができた。これにより、立体錯視の要因が、網膜像に含まれる奥行きの自由度と、絵を見る視点位置の選択の自由度の二つあり、それらがどのように組み合わせれてそれぞれの不可能立体群を作っているかを鳥瞰できるようになった。
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