研究課題/領域番号 |
18K19849
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坂口 綾 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00526254)
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研究分担者 |
山崎 信哉 筑波大学, 数理物質系, 助教 (70610301)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 人工ウラン同位体 / 海水 / 極微量核種測定 / ウラン吸着剤 |
研究実績の概要 |
人類の核活動により、長半減期ウラン(U)-233(半減期16万年)が放射性セシウムと同様に世界中に拡散している事をこれまでのアクチノイド研究から予測した。しかし、最新鋭の加速器分析技術をもってしてもその測定は困難を極めていた。本研究では様々な試料においてこれをなるべく簡便に可能にし、様々な分野へ応用することを最終目的に加速器質量分析法を確立する。今年度は、特別な核汚染のない一般海水中のウラン同位体をできるだけ少ない海水量から船上で濃縮し、陸に持ち帰るための方法として、アミドキシム基を重合させた吸着布に着目した。船上での作業を想定し、できるだけ少ない吸着布を用い、高効率で短時間内にウランを海水から吸着濃集させるための条件を探求するために(1)吸着布のサイズ、(2)pH、(3)吸着時間、についてパラメータを振り、吸着量との関係を見極めた。また、吸着布からのウラン脱離回収量を最適化させるための脱離実験も行った。それぞれの実験から得た結果から、U-233測定に最低限必要な5Lの海水からウランを効率よく吸着し脱離する条件を決定できた。今後は実際の海洋で実証する予定である。 また、昨年度より引き続き手掛けているAMS測定試料作成のための、マイクロフロー電着セルの形を、昨年度作成したプロトタイプのセルを参考に改良を行い、樹脂部分に関しては既に作成を終えた。実際の電気分解を行う金属等の選定が完了しなかったため、次年度の課題とする。 最大の業績としては、海水中のウランを約1000倍の濃度で濃集しているサンゴからウランを精製濃縮した試料においてU-233の観測に成功し、国際学術誌に論文投稿・受理された。この結果は、今後ますます世界で測定・利用されるU-233研究の新たな第一歩として非常に意義深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、2018年度開始した電着セルの開発の続きと、現場(海洋)で煩雑な作業なくできるだけ少ない海水量から効率よく回収する方法について最適化を行った。電着セルに関しては、マイクロフローで電着させるために、セルの細部作成が困難を極めた事、またウランが加水分解をしないように溶液を酸性にした場合腐食せずに、かつAMS試料として直接電着陰極面を高熱処理するために適した最適金属が入手できず、実際の電着まで至らなかった。一方、船上においてウランを効率よく回収する方法においては、沈殿回収のように溶液調整後の放置や加熱、さらに揺れる船上での困難な沈殿回収操作をする必要が全くない、吸着材を用いて回収できることが分かった。この吸着剤は不織布を基盤としており、取り扱いが非常に用意である他、今回の最適化条件を用いれば吸脱着率も安定して90%を超える事が分かった。このように、研究全体としては順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
電着セルの作成については、特注でカソードを作成したのでそのカソードを用いて予備実験を行い電着可能であることを確かめた上で、実際に極微量ウランを効率よく電着する条件(例えば液量や送液速度、時間)を探索し、マイクロフロー電着を完成させる。また、2019年度にビーカーやスターラーを用いた実験室での条件の最適化が出来たので、船上で実際に使用できる手法としてロンテナーや固定したスターラー等による方法で最終的に確立することを目指す。ただし2020年度に予定していた航海が、昨今の事情により現状中止となってしまった。この問題に対応するため、これまでアーカイブとして保管している海水にて、最適化した方法により海水からウランを濃集し、U-233も含めたウラン同位体の測定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、大量海水からの濃集法として沈澱や特殊な樹脂による回収することを計画していた。そのため、検討に関わる試薬や樹脂等を計上していた。しかし、別用途で使用されていたウラン吸着布を使用することで、簡便かつ高効率に(我々の目的にかなった方法で)ウランを回収することができた。そのため、その予算分は今年度使用が非常に抑えられた。ただし、布製造には放射線を用いた重合が必要であるなど、特殊な環境が必要なため、2020年度にあらためて沈澱法などについて検討する。また、白金族や貴金属を用いたカソード開発を予定していたが、現在の加工技術で我々のニーズに沿ったものを作るのが非常に難しいこと、また無理をして作成する場合は膨大な費用が掛かる事が明らかになった。そのため、まずは合金など別の材料での加工で挑戦しているために、次年度使用額が生じる事となった。
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備考 |
(1)についてはウィーン大学からのプレスリリースページもあります。
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