研究課題
本研究では、積雪の酸素同位体比と地上気温の関係が成り立つ物理メカニズムの解明を最終目的として実施した。昨年までに行った研究成果から、酸素同位体比の地理的分布特徴は沿岸域から侵入してくる暖気の頻度や強度に依存していることを明らかにし、これが酸素同位体比と地上気温の相関関係を作り出していると説明した。今年度は、この仮説が時間変化も説明できるか検証を行った。具体的には、2018年にドームふじ地区で採取された積雪ピットの年代決定を行うとともに酸素同位体比分析を行い、1960年代から2018年までの酸素同位体比時系列データを作成した。さらに、この時系列データと比較できる地上気温データセットの作成にも取り組んだ。そして両者の比較から以下の結果を得た。(1) 有意な温暖化トレンドが見られた2000年以降、酸素同位体比も同様に高くなる傾向を示している。(2) この温暖化トレンドは、沿岸域からの暖気移流の増強によって引き起こされている。この結果は、地理的分布から得られた仮説と整合的であり、高温かつ高い酸素同位体比で特徴づけられる暖気イベントの発生頻度や強度の変化が、南極域において素同位体比と地上気温の明瞭な関係を形成していることを明らかにした。また、今年度の最大の実績としては、ドームふじ地区における長期気温データセット整備が挙げられる。ドームふじ地区では、1990年代から自動気象観測測器を使った気温観測が行われているが、気候変動の実態は不明なままであった。今回、過去に実施された気象観測データの品質管理を行うとともに、客観解析データから観測気温を推定する手法を確立し、過去40年にわたる地上気温データセットを作成した。そして、そのデータ解析より、温暖化影響を受けていないと思われていたドームふじ地区にて、世界で初めて温暖化傾向を検出することに成功した。
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Journal of Atmospheric and Oceanic Technology
巻: 38 ページ: 2061-2070
10.1175/JTECH-D-21-0107.1