研究課題
一般の植物が利用できる固定態窒素(硝酸やアンモニア等)を一般の植物が利用できない窒素ガスに変える脱窒過程は、地球上で最も重要な物質循環過程の一つである。本研究では、三種の酸素同位体の相対組成を指標に使った新しいin-vitro脱窒速度定量手法の開発に挑戦する。本研究が提案する新手法は、酸素-17を濃縮した硝酸を少量添加した上で培養し、初期に存在した硝酸の消費速度から脱窒速度を求める。気体分子(窒素ガスや一酸化二窒素)を定量する従来手法とは違って、試料を密閉容器に移す必要がなくなるので、手順が簡便となる。また、既存のサンプラーをそのまま培養系に活用できるので、より現場に近い環境で、確度の高い脱窒速度を求めることができ、正確な固定態窒素の収支やその経年変化を様々な時空間スケールで見積もれるようになることが期待される。本研究では、新手法である三酸素同位体トレーサー法を使って、沿岸域の海底堆積物(伊勢湾および三河湾)、湖底堆積物(中栄養湖である琵琶湖および富栄養湖である諏訪湖)や河床堆積物(天白川)における脱窒速度を定量化し、新手法に問題がないか確認した。コアサンプラー等採取容器を用いて表層堆積物を採取し、各採取容器中の試料について、酸素-17-濃縮硝酸試薬を添加して暗所培養を行い、脱窒速度を求めた。また、同じ試料について、密閉容器内に移し、従来法であるアセチレンブロック法を用いて脱窒速度を算出し、比較・検証を行った。
2: おおむね順調に進展している
初年度の目標は、水―堆積物インターフェースにおいて、新手法である「三酸素同位体トレーサー法」と、従来法である「アセチレンブロック法または窒素同位体トレーサー法」を用いた培養実験を同時に行って結果を比較・検証し、三酸素同位体トレーサー法による脱窒速度定量法を確立することである。コアサンプラー等を用いて海底・湖底・河床堆積物を採取する手法や培養条件等の検討を行い、脱窒速度が比較的速い堆積物環境においては、十分脱窒速度が定量できることが確認でき、その成果は学会発表を通じて報告している。
二年目は、引き続きコアサンプラーやチャンバー等を用いて、様々な水―堆積物インターフェースにおける脱窒速度の定量を行う。特に、脱窒速度が遅い堆積物環境では、さらに高度に酸素-17濃縮した硝酸添加試薬を作成し、それを添加して培養することを試みる。また、セジメントトラップ等を用いて沈降粒子を採取し、水―沈降粒子(微小還元環境)インターフェースにおける脱窒速度の定量にも挑戦する。また、各試料について密閉容器内に移し、従来法であるアセチレンブロック法を用いて脱窒速度を算出する。これらの結果を比較し、三酸素同位体トレーサー法の確度を検証する。ただし、三酸素同位体トレーサー法で求められるのは硝酸還元速度、アセチレンブロック法で求められるのは一酸化二窒素化速度という違いがある。さらに、浅瀬などの有光環境では、遮光した上で培養した場合でも、一部の硝酸は同化 (光合成) によって有機態窒素化される可能性がある。これらの点に注意して結果を比較・検証し、手法を改善して観測を繰り返す。海洋観測は沿岸域である伊勢湾・三河湾等で観測する他、外洋域である日本海や太平洋でも観測を行う予定である。また、湖沼観測についてもなるべく多くの湖沼型(富栄養湖~貧栄養湖)で観測を行う予定である。その他、硝酸濃度の比較的高い河床環境でも観測を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件)
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