研究実績の概要 |
窒素は一次生産に必須な栄養塩であり,海洋や湖沼,河川等の水圏環境中では,主に硝酸態窒素として存在する.水圏環境に対する硝酸の過剰供給は,富栄養化や水質悪化などの環境問題に直結するため,硝酸の供給と除去の各過程を定量化し,各過程の大きさを規定する要因を解明することは重要な課題である.そこで本研究では,三種の酸素同位体の相対組成を指標に使った新しいin-vitro脱窒速度定量手法の開発に挑戦した.外洋域の海底堆積物(日本海),沿岸域の海底堆積物(伊勢湾および三河湾)、湖底堆積物(中栄養湖である琵琶湖および富栄養湖である諏訪湖)や河床堆積物(野洲川および天白川)において,酸素-17を濃縮した硝酸を少量添加した上で培養し,初期に存在した硝酸の消費速度から水-堆積物インターフェースにおける脱窒速度や硝化速度を求めた.海底および湖底堆積物については, アクリル製の円筒容器に表層から約20~40cmの堆積物並びに直上水約1Lを採取し,河床堆積物と河川水については,容量13 Lの透明アクリル製バケツに採取して培養実験を行った.従来法であるアセチレンブロック法で同じ水-堆積物インターフェース試料における脱窒速度を求めて比較し,新手法の信頼性を検証・確認した.また,硝化速度の検証には,窒素-15同位体トレーサーを用いた培養実験等も行った.その結果,硝化速度は水柱の一次生産と水深の大小に応じて変化すること,脱窒速度は湖水の酸化・還元環境に応じて変化することなどを見出した.本研究で開発・検証した脱窒・硝化速度定量法は,水-堆積物インターフェースにおける窒素循環速度を定量化できる革新的な方法であると考えられる.
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