研究課題/領域番号 |
18K19856
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
奥田 知明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (30348809)
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研究分担者 |
岩田 歩 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (30827340)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 肺沈着表面積 / 粒子状物質 / エアロゾル / 拡散荷電法 / 環境分析 / 環境質定量化・予測 / 大気汚染防止・浄化 / 表面積 |
研究実績の概要 |
大気中の微小粒子状物質PM2.5は質量基準の濃度で規制されている。しかしこのアプローチでは、化学成分や質量が同一でも表面積が異なると生体影響が異なることを考慮していないため、PM2.5の有害性を科学的に解明する際に不十分である。そこで本研究では、実環境大気中PM2.5の粒子表面積濃度の挙動を支配する要因を多角的に解析し、表面積濃度が質量濃度を代替もしくは補完する有用な新規指標となり得るか否かについて判断を行うために必要となる信頼性の高い基礎的知見を得ることを目的とする。
令和元年度は、粒子状物質による健康影響に対してより直接的な指標となり得る肺沈着表面積 (Lung deposited surface area, LDSA) について研究を進めた。具体的には、粒子表面にイオンを付着させてその荷電量を測定する拡散荷電 (Diffusion Charging) 法に基づいたNanoparticle surface area monitor (TSI, Model 3550)を用いてLDSA濃度を観測した結果を解析した。観測地点は、能登、福江、福岡の3地点とした。また、同時に観測された化学成分濃度、粒径分布、湿度などを用いてLDSA濃度の特徴について解析を行った。
能登、福江、福岡において測定されたLDSA濃度を粒径分布により補正した結果、LDSA濃度はそれぞれ平均0.95, 1.9, 2.8 μm2/cm3であった。また同季節においても、各地点で観測された粒子の大きさにより粒子質量濃度に対する比LDSA濃度が異なることが示された。 これらの地域的な違いは、他成分と比較して特に黒色炭素(BC)粒子濃度においてその傾向が顕著となった。同様に、能登における通年観測では、夏季に比較的微小な粒子が卓越することで比LDSA濃度が増大する季節変動が示され、特にBC粒子濃度において顕著であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、国内複数地点において粒子表面積のフィールド観測を実施することができた。さらに並行して拡散荷電法による肺沈着表面積計測における粒子の物理化学性状への依存性についての室内実験による検証も順調に進めている。従って、現在までの到達度を、概ね順調に進展している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
粒子の有害性を評価する上で、従来の質量基準の議論のみでは不十分であることは明白であり、実環境大気粒子の複雑な生成・輸送・沈着機構に対応した表面積挙動の解明が必要不可欠である。本研究では、過年度に引き続き、既存の野外観測プラットフォームを活用して、国内の複数地点におけるPM2.5表面積とその他項目の連続観測を進める。令和2年度も引き続き、石川県珠洲市、福岡県福岡市、長崎県五島市および神奈川県横浜市の4地点の観測拠点を活用し、研究を進める。これら4地点には、石川:清浄地域+時折越境汚染あり、福岡:都市域+ほぼ常時越境汚染あり、五島:清浄地域+ほぼ常時越境汚染あり、神奈川:都市域+ローカル発生源の寄与大、といったそれぞれの特徴があり、都市域と清浄地域での粒子発生源の違いや、粒子の二次生成機構の違い等による表面積への影響などに関する新たな知見が得られることが期待される。 また、本研究では複数地点において複数台の表面積計を用いるため、データの相互比較を行うためには、各装置の測定値の相互比較を行う必要がある。同一空気塊中の粒子群の複数機器による測定値の相互比較を実施する他、粒径既知のポリスチレンラテックス球 (PLS)を用いた球形近似による表面積と、表面積計による実測値との比較を行い、測定結果から補正係数の算出を行う。さらに、拡散荷電法による肺沈着表面積計測における粒子の物理化学性状への依存性についての検証も室内実験により進める。 成果発表については、国内発表2件、国際学会2件、英文学術誌1件を目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 小額の未使用分が発生したため (使用計画) 次年度予算と合算し研究費として使用する
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