研究課題/領域番号 |
18K19859
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研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
埴岡 伸光 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (70228518)
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研究分担者 |
大河原 晋 横浜薬科大学, 薬学部, 准教授 (20409387)
礒部 隆史 横浜薬科大学, 薬学部, 講師 (30440530)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 生活環境化学物質 / 異物代謝酵素 / リスク評価 / グルクロン酸抱合反応 / UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT) / ミクロゾーム / 植物エストロゲン / ダイゼイン |
研究実績の概要 |
本研究は、個人の体質を考慮した生活環境中の化学物質の生物活性(リスクおよびベネフィット)の評価法の開発を目的とする。本年度は、ダイゼインのグルクロン酸抱合反応に関与するUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)の機能の種差(ヒト、サル、ラット、マウス)を肝臓および小腸のミクロゾーム画分を用いてin vitro系で検討した。 ダイゼインは、弱いエストロゲン作用を示すイソフラボンである。本課題ではヒト、サル、ラットおよびマウスの肝および小腸ミクロゾームのダイゼインの7位あるいは4'位の水酸基に対するグルクロン酸抱合活性を測定した。肝ミクロゾームによるダイゼインのグルクロン酸抱合反応は、ラットにおける7-グルクロニド生成における不定型およびサルにおける4'-グルクロニド生成における二相性を除いてミカエリス-メンテン型の速度論的挙動を示した。一方、小腸ミクロゾームによるダイゼインのグルクロン酸抱合反応の速度論的挙動は、マウスにおける7-グルクロニド生の二相性を除いてミカエリス-メンテン型であった。 7-グルクロニド生成のin vitroクリアランス(CLint)値は、肝ミクロゾームではサル(49)≫ラット(53)>ヒト(1.0)>マウス(0.7)であり、小腸ミクロゾームではラット(2.4)≧サル(2.2)>ヒト(1.0)≧マウス(0.7)であった。4'-グルクロニド生成のCLint値は、肝ミクロゾームではサル(4.0)>マウス(1.0)≒ヒト(1.0)>ラット(1.0)であり、小腸ミクロゾームではヒト(1.0)≫サル(0.08)≧マウス(0.07)>ラット(0.05)であった。 これらの結果より、ダイゼインのグルクロン酸抱合反応に関与するUGTの分子種の機能および臓器分布性は、動物種間で大きく異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、生活環境中の化学物質のモデルとして、抗酸化作用とともに弱いエストロゲン作用を示すイソフラボンのダイゼインに着目した。異物代謝酵素源としてヒト、サル、ラットおよびマウスの肝臓および小腸のミクロゾームを用いた。これらのミクロゾームは、ダイゼインには生体に対してポジティブおよびネガティブの両生物活性を有すること、また異物代謝酵素のUGTには分子的および機能的多様があることに基づいている。 ダイゼインのグルクロン酸抱合反応の位置選択性および関与する肝臓および小腸に発現しているUGTの機能は動物種間で大きく異なることを速度論的解析により明らかにした。これらの結果は、実験動物におけるダイゼインの代謝の様相は、ヒトと相似しておらず、イソフラボンなどのエストロゲン様作用を有する化学物質のリスクあるいはベネフィットの評価には異物代謝酵素の特性を考慮して行わなければならないことを実証した。従って、本年度の検討およびそれらの成果は、本課題の当初の計画を概ね達成したものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果を踏まえて以下の研究課題を推進する。 1)ヒトの肝臓および小腸におけるUGTの発現解析:ダイゼインをはじめイソフラボンの摂取は、経口であることを前提とする。対象とする異物代謝酵素は、UGT(13分子種)とする。ヒトの肝臓および小腸のmRNAレベルは、total RNAパネル(各10例程度)をリアルタイムRT-PCR法により、酵素タンパク質レベルは、ミクロゾーム(各10例程度)をウェスタンブロッティングにより、それぞれ定量を行う。 2)ヒトにおけるダイゼインのグルクロン酸抱合反応に関与するUGT分子種の特定:リコンビナントUGT(13分子種)を用いて、それぞれの分子種のダイゼインに対する抱合活性および親和性を速度論的解析により追究する。また、UGTの遺伝的および環境的要因に基づくイソフラボンの生物活性および代謝の個体差を明らかにするために、個人の肝ミクロゾームによるダイゼインのグルクロン酸抱合反応について検討を加える。 3)フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)の加水分解反応の種差:フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)は、シックハウス症候群の原因となり、また内分泌かく乱も惹起する可能性が示唆されている。これら毒性は、カルボキシルエステラーゼにより生成するフタル酸モノ(2-エチルヘキシル)が活性本態であることが動物実験より実証されている。そこで、フタル酸ジエステル類の毒性と代謝の関連性を分子レベルから解明するために、ヒト、サル、ラットおよびマウスにおけるフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)の加水分解反応を肝臓および小腸のミクロゾームを用いてin vitro系で検討する。その成果は、環境汚染物質の毒性評価に有用な情報を提供するものと期待できる。
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