研究課題
大気中の二酸化炭素を低コストで分離回収する技術開発は、環境問題の観点から喫緊の課題である。本研究では、これまでとは全く異なる脱離機構“降温による液固相転移を利用した吸収二酸化炭素の脱離”により、二酸化炭素を高選択的に吸収分離するイオン性物質を合成する。その選択的吸収分離の機序をX線回折・熱量・分光・吸着測定から明らかにするとともに、材料設計指針と材料群のプロトタイプを提示し、学術的基盤の形成に資する。これまで未開拓であった降温脱離の実証により、全回収コストの50~70%を占める脱離プロセスの省エネ化を促すと期待できる。本年度は、初年度に合成したbis(trifluoromethylsulfony)imideアニオンを有するイオン性物質の固液相転移前後の二酸化炭素吸収特性を熱重量分析装置を用いて行ったが、どちらの相においても吸収挙動が観測されなかった。そこで、bis(trifluoromethylsulfony)imideアニオンを含む新規イオン性物質を合成し、その構造解析を行った。そのうちの一つの結晶は、合成条件によってbis(trifluoromethylsulfony)imideアニオンがすべて金属イオンに配位した中性構造とアニオンの半分がフリーな状態で存在するイオン性構造の二種の構造をとる珍しい物質であることが分かった。熱分析測定から、相転移温度は高いものの固液相転移を示すことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
初年度に得られた知見をもとに、本年度は固液相転移を有するイオン性物質を数種類合成することに成功しており、融点降下のための物質設計指針はほぼ確立されたとみてよい。また、当初予期していなかったが、bis(trifluoromethylsulfony)imideアニオンは融点降下に寄与する以外に、多様な固体相の発現にも有効であることが明らかとなった。固体構造に同期したイオン伝導性変化が期待できる。さらに、熱重量分析装置を用いた固液相転移前後の二酸化炭素吸収能の評価システムを構築した。以上の結果より、目的達成へ向けた研究は概ね順調に進行していると思われる。
最終年度は、本年度に構築した熱重量分析装置による二酸化炭素吸収能評価システムを用いて、液化状態で二酸化炭素吸収能を有するイオン性物質開発を進める。吸収が確認されたイオン性物質について、吸収構造を二酸化炭素雰囲気下IRスペクトル測定により調べる。また二酸化炭素分圧を変化させて吸収実験を行い、吸収エンタルピーを評価する。得られた成果に関しては、迅速に論文にまとめる。
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