大気中の二酸化炭素を低コストで分離回収する技術開発は、環境問題の観点から喫緊の課題である。本研究では、これまでとは全く異なる脱離機構“降温による液固相転移を利用した吸収二酸化炭素の脱離”により、二酸化炭素を高選択的に吸収分離するイオン性物質を合成する。その選択的吸収分離の機序をX線回折・熱量・分光・吸着測定から明らかにするとともに、材料設計指針と材料群のプロトタイプを提示し、学術的基盤の形成に資する。これまで未開拓であった降温脱離の実証により、全回収コストの50~70%を占める脱離プロセスの省エネ化を促すと期待できる。 本年度は、bis(trifluoromethylsulfony)imideアニオンを有するイオン性物質2種の固液相転移特性を示差走査熱量分析装置を用いて行った。どちらの物質も高温で分解前に固液相転移を示すことが分かった。また、液化後冷却するともとの結晶相には戻らずアモルファスガラス相に転移することが明らかとなった。ガラス相の構造を赤外分光測定によって調べたところ、ガラス相は結晶相と同様の配位構造を取っていることが示唆された。ガラス転移温度が室温付近の物質の二酸化炭素吸収特性を調べたが、二酸化炭素はほとんど吸収されなかった。一方で、別の多孔性物質と複合化すると、多孔性物質のガス吸着選択性が劇的に変化することが明らかとなった。例えば、多孔性物質は77Kで窒素を吸着するが、複合化後は窒素をほとんど吸着しなくなった。一方で、195Kにおいて二酸化炭素は多孔性物質に吸着されるが、複合化後の二酸化炭素吸着量はわずかに減少するにとどまった。SEMや他のガス吸着測定結果から、複合化後ガラス相が多孔性物質表面を完全に覆っており、ガラス相が極性ガスに対して選択的透過能を示していることが示唆された。
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