研究課題/領域番号 |
18K19876
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊勢 武史 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 准教授 (00518318)
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研究分担者 |
内田 由紀子 京都大学, こころの未来研究センター, 准教授 (60411831)
大庭 ゆりか 京都大学, 森里海連環学教育研究ユニット, 特定助教 (30816921)
門脇 浩明 京都大学, 森里海連環学教育研究ユニット, 特定助教 (30643548)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 生態系サービス / ウェアラブルデバイス / レクリエーション / 教育 / 芸術 |
研究実績の概要 |
本研究では、自然科学の手法を用いて「文化的生態系サービス」を客観的・定量的に計測することを目指す。これは人間の幸福の解明と増進に貢献し、また自然保護の理論的根拠としても重要な成果となる。人間を動物の一種と考え、その行動や、行動の動機となる心理を客観的・定量的に計測する。進化生物学者・生態学者・心理学者からなる研究チームが、最新のデバイスを用いたフィールド計測をデザインし実施するのが本研究の特徴である。「リラックス度」など既存の脳波測定に基づく指標に加え、「畏怖」など定量化されていない感情の心理指標の開発も行う。
初年度となる2018年度は、文化的生態系サービスについてメタ的な考察を行った。本研究は、自然科学の手法と考え方を用いて人文科学的な問いに答えようとするところに大きな革新性と挑戦性がある。「人間と自然の関係とはなにか」という問いに答えるには、自然科学・社会科学・人文科学の融合が必要である。そのため、これまで接点の少なかった生態学・情報科学・心理学の専門家が集結し、彼らの知見を総合する。これにより、従来は漠然と推測することしかできなかった文化的生態系サービスの価値を定量的・総合的に評価することを目指す。これを達成するため、学内外の研究集会などで発表を行い、多様な研究者・芸術家・市民たちとの議論を深めた。
さらに、本研究の核心となるウェアラブルデバイスのテスト実験およびパフォーマンス評価を行った。ポータブル脳波計Neurosky Mindwave Mobileを森林環境で用いた実験を行い、本機のデータ取得性能および無線によるデータ転送性能を評価した。これにより、起伏に富む森林環境で軽度な身体活動を行っても安定してデータの記録が可能であることが確かめられた。さらに、複数のウェアラブルカメラの機能比較を行い、被験者が経験した森林環境を適切に記録する手法を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度となる2018年度に実施した研究を以下にまとめる。
文化的生態系サービスについて多面的な考察を行った。関連する議論を深めるため、東京藝術大学で2度の講義、京都府立暦彩館での講義など、人文科学の専門家や自然に関心を持つ市民などの意見を聞きつつ、現代人は自然から、どのような心理的効果を得ている、あるいは望んでいるかを知ることができた。また、人間の自然に対する心理について進化心理学の見地から検討した一般書の執筆を進め、初校を提出した。
ウェアラブルデバイスのテスト実験およびパフォーマンス評価を実施した。京都大学芦生研究林において、ポータブル脳波計Neurosky Mindwave Mobileを用いた計測を行った。9月中に2度、京都大学の学部生を対象に計測を実施し、天然林・人工林の違いが心理指標(集中度・リラックス度)にどのような影響をおよぼすかを調べた。また、比較対象としてアスファルト舗装された駐車場でも同様の実験を行うことで、森林の持つ心理的効果を探った。さらに、森林環境が視覚・聴覚・触覚に与える影響を分離して検証するための実験を実施した。たとえば、森林を流れる渓流に足をひたすという行為と、大学の会議室内でバケツの水に足をひたす行為に違いが現れるかなどを検討した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、(1)文化的生態系サービスについての包括的な研究活動、および(2)自然環境下での定量的なデータ取得を実施する。将来的にはこれらの結果を統合し、あるべき人と自然のかかわり方、そして自然環境マネジメントについての提言につなげる。
文化的生態系サービスについての包括的な理解を進めていく。文化的生態系サービスには数多くの側面がある。たとえば自然は、人とのかかわりにおいて、レクリエーションの価値・教育的価値・芸術的価値などの文化的生態系サービスを提供している。これらを総合することで人と自然の文化的なかかわりの理解を進めていく。そのために、文献調査・現地調査・聞き取り調査などの調査活動を実施し、さらに執筆活動・講演活動を通して多様な関係者との議論を深めていく。
自然環境下での定量データ取得としては、前年度に引き続きポータブル脳波計およびウェアラブカメラを用いた記録を進めていく。京都大学芦生研究林をフィールドとして、学生など複数の被験者を対象に実験を実施する。さらに、ディープラーニングによる画像自動識別技術を応用し、人間の視野に占める緑地割合を自動的に定量化する研究を進める。これにより、アンケートなどの心理調査と自然環境の相関関係を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、当初計画よりも主に、設備備品費および人件費・謝金の支出が少なくなったため、次年度使用額が生じた。なお、当初計画どおりの研究は遂行できている。設備備品費については、高額のウェアラブル脳波計の購入を今年度は見送り、低価格のウェアラブル脳波計で実証実験を行うことで、次年度に購入予定のウェアラブル脳波計の機種選定がより正確なものとなる。人件費・謝金については、当初はデータ処理などの補助者を雇用する予定であったが、修士課程の学生が本研究の目的に沿った研究活動を行うこととなったため、支出が抑えられた。次年度は、2年間で蓄積されたデータの処理のために人件費・謝金を使用する予定である。
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