研究課題/領域番号 |
18K19881
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高塚 由美子 京都大学, エネルギー理工学研究所, 特定准教授 (70570810)
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研究分担者 |
原 富次郎 京都大学, エネルギー理工学研究所, 特定教授 (70616193)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | ポリ塩化ビフェニル / 還元的脱塩素化酵素 / 遺伝子組換え細菌 / ビタミンB12 / Dehalococcoides |
研究実績の概要 |
ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)は難分解性の環境汚染物質で、土壌河川等の有効な浄化法は未だ無く、PCBs廃絶は持続可能な社会形成に極めて喫緊な課題として認識されている。自然界でのPCBs微生物分解には「好気下での酸化的ビフェニル環開裂」と、反応条件が厳しく実用的利用が困難とされる「嫌気下での還元的脱塩素化」が知られる。本研究は、高塩素置換型PCBsの還元的脱塩素化を大気下で実現させる、世界初の革新的な生物触媒の創出を目的とする。 偏性嫌気性細菌のPCBs還元的脱塩素酵素はビタミンB12を補酵素とし、再生に高い還元力を要する1価コバルトが活性種となり触媒反応する。我々は、1価コバルトを安定再生する特性付与を目標に、前年度はデハロコッコイデス属細菌のPCBs脱塩素酵素を細胞膜結合アンカータンパク質と共発現する遺伝子組換え細菌を、ビタミンB12高生産細菌(A株)を宿主として作製した。 当該年度は、本遺伝子組換え菌株を用いて組換え酵素によるPCBs脱塩素活性を検出するため、好気及び嫌気下での異なる発現条件や種々の反応条件を検討しているが、これまでのところ明確な酵素活性を確認できていない。そこで比較対象として、組換え酵素作製時にゲノム情報を参考にした、デハロコッコイデス属単離菌株を共同研究先のシンガポール国立大学から分与してもらい、嫌気培養とPCBs脱塩素活性の検出を試みている。 また、組換え酵素作製の候補とするPCBs脱塩素酵素の情報を幅広く得るため、国内のPCBs汚染原位置から地下水を採取し、これにPCBsを添加して嫌気条件下でPCBs濃度及び含有同族体比率の経時変化を観察した。その結果、PCBs濃度が顕著に減衰することを確認し、また試験液中にPCBs脱塩素細菌として報告がある2種属(B及びC種属とする)を検出した。脱塩素反応を検証するため、本原水試験は次年度も継続して行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、前年度に作製したデハロコッコイデス属細菌由来のPCBs脱塩素酵素を発現する遺伝子組換え菌株を用いて、PCBsに対する脱塩素活性を確認する計画であった。組換え菌株の宿主に使用しているビタミンB12高生産細菌A株が好気・嫌気両条件下で生育可能であることを生かし、組換え酵素の発現を好気・嫌気両条件下で試したり、誘導条件や酵素反応条件について種々検討を重ねながら、脱塩素活性の確認を現時点も継続中である。比較対象として入手した、デハロコッコイデス属単離菌株によるPCBs脱塩素活性の検出と合わせて、作製した組換え酵素の活性確認は、次年度も引き続き実施していく予定である。 また、作製する組換え酵素の選択候補を既報のデハロコッコイデス属細菌由来酵素以外にも広げることを念頭に実施した、PCBs汚染原位置の地下水を用いた試験からは、20 mg/Lの初期濃度で添加したPCBs濃度が嫌気下で28週以降に顕著に減衰することを認めるとともに、PCBs脱塩素細菌の候補種属2種類を検出した。組換え酵素作製の候補となる新たなPCBs脱塩素酵素の情報を得られる可能性があり、次年度も引き続き検討していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度は、組換え酵素作製の候補とするPCBs脱塩素酵素の情報を幅広く得るため、PCBs汚染原位置の地下水を使用した試験を追加実施した。その結果、新たな候補となりうる細菌種属2種類を検出している。よって次年度は、(1)既に作製した組換え酵素によるPCBs脱塩素活性の確認と、(2)PCBs汚染原位置の地下水を使用した試験について、引き続き検討を加える。さらに、組換え酵素による脱塩素活性確認後は、(3)本酵素に1価コバルトを安定再生できる特性を付与した新機能酵素の創生を目指す。 (1)組換え酵素による高塩素置換型PCBsの脱塩素反応:当該年度までに作製成功している、デハロコッコイデス属細菌由来のPCBs脱塩素酵素タンパク質を発現する組換え細菌株を用い、組換え酵素による嫌気下での高塩素化PCBs脱塩素反応について、デハロコッコイデス属単離菌株とも比較しながら引き続き検討する。組換え酵素の好気・嫌気下での発現条件や誘導条件、宿主細菌A株によるビタミンB12高生産条件などについて、特に注意を払う。 (2)PCBs汚染原位置の原水に添加したPCBsの経時変化と脱塩素化細菌の解析:当該年度に観察したPCBs濃度の顕著な減衰の再現性を確認するとともに、PCBs脱塩素反応を検証する。試験液中に継続して存在が検出されたPCBs脱塩素候補細菌、B及びC種属から新たなPCBs脱塩素酵素の情報を得られれば、組換え酵素の候補とできるだけでなく、下記(3)で必要となってくる活性中心等の酵素構造推定にも役立つと考える。 (3)コバルトを安定再生できる特性を付与した新機能酵素の創生:1価コバルトを安定再生するため、活性中心付近に導入する低分子化合物の構造や、導入位置について検討していく。
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