研究課題/領域番号 |
18K19882
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
徳本 勇人 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (70405348)
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研究分担者 |
吉原 静恵 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20382236)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 酸化亜鉛ナノ粒子 / 光合成生物 / 葉緑体 |
研究実績の概要 |
これまでに、植物の培養細胞であるカルスを用いて、その培養液に酸化亜鉛ナノ粒子を添加し、細胞の増殖量を評価した。その結果、培養液中の亜鉛イオン濃度、即ち、粒子から溶出した亜鉛濃度よりも、カルス細胞内の亜鉛濃度が高いことが明らかとなった。従って、培養液中に粒子から溶出した亜鉛イオンを、カルス細胞が能動的に吸収していることが示唆される。恐らく、カルス細胞近傍には粒子が凝集している可能性が考えられ、これを付着量として評価し、添加量との相関関係を、今後詳細に検証していくことになる。 照射する光条件の検討では、酸化亜鉛ナノ粒子の添加によって、カルス細胞が高増殖し、クロロフィル量も増加している要因には、青色光照射による影響が、他の赤色光等によるものよりも大きいことが分かった。また、このような現象は、数ある金属酸化物ナノ粒子の中でも、酸化亜鉛ナノ粒子特有のものであることを突き止めることに成功した。 酸化亜鉛ナノ粒子の添加による、カルス細胞の高増殖について、発現遺伝子の網羅的解析を実施した。その結果、塩ストレスに関連する遺伝子群に高活性が見られることから、カルス細胞による亜鉛吸収が、遺伝子解析からも確認できたと考えられる。ここまでの成果は論文投稿に至っており、現在、修正稿の提出中である。 カルス細胞を用いた検討で得られた成果を、新たに藍藻に適用した。その結果、カルスと同様に、酸化亜鉛ナノ粒子の添加による細胞増殖現象が認められた。従って、単一微生物である藻類への技術導入にも大きな期待が持てると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は、周辺テーマも含めて、成果発表が14件を数えた。この中には、カルス細胞による溶出した亜鉛イオンの能動的吸収量の評価、亜鉛イオンの高吸収による塩ストレス関連遺伝子の高発現、青色光による細胞増殖量の増加といった、今年度実績の内容が全て含まれる。また、周辺テーマでは、カルスが分化した後に形成される植物体への影響を解析する目的で、レタス根、ユリ花粉管に対する、酸化亜鉛ナノ粒子の場栗実験の成果も含まれている。藻類(Synechocystis sp. PCC6803株)への技術導入については、平成30年度内に成果発表の申し込みを済ませており、次年度当初で発表予定である。 カルス細胞を用いたテーマは、平成30年度内で論文投稿を済ませ、現在、修正稿の提出中となっており、当初の計画以上に研究内容は進展しており、その成果実績も早い段階で挙がる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究開始初年度より、研究計画以上の進展が見られたため、その成果内容に応じたテーマ展開を盛り込み、肉厚の研究展開を実施する。特に藻類については、至適pHの違う別の種や、褐藻類への技術導入に踏み切る。既に、先行研究も開始している。 検討対象生物を充実させることで、プロセス化の為の、律速段階の探索とその操作因子の特定、培養細胞制御技術の構築を目指す。これら生産プロセスの構築に資する検討を加え、既に、申請時に出願済みの特許について、その権利化を積極的に推し進める。 合成粒子についての検討課題については、細胞増殖に貢献する金属種を中心に、その溶出速度を制御するコーティング方法の検討に着手しており、亜鉛粒子の専門メーカーとも共同研究契約が成立している。加えて、市販化に向けた流通商社とも共同研究、特許使用のライセンス契約を結ぶ予定であり、細胞レベルでの新規な高生産性植物生育方法の創出につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた研究補助員が雇用に至らず、その人件費分、および雇用予定であった研究補助員が使用するために計上していた消耗品費分についても次年度使用額として計上されている。
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