研究課題/領域番号 |
18K19886
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
馬場 祐治 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究嘱託 (90360403)
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研究分担者 |
下山 巌 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (10425572)
本田 充紀 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究副主幹 (10435597)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 特性X線 / 核壊変 / 放射性核種 / 汚染土壌 / 放射能分析 |
研究実績の概要 |
環境中の放射性核種について、核壊変により自発的に放出されるX線を精密に測定することにより、迅速、簡便に測定する方法について検討した。密封標準線源から放出される特性X線を、半導体検出器で測定した結果、Cs-137からはBa K X線およびBa L X 線が観測された。一方、ガンマ線を全く放出しないSr-90からも、Y K X線、Zr K X線がわずかに観測された。 次に本手法を、汚染土壌の分析に応用した。福島県富岡町で採取した低レベルの汚染土壌(平均放射能強度:8.2 kBq/kg)からは、1.7×10-3 cpsの強度でBa K X線が観測された。バックグラウンドの変動から、この測定条件におけるCs-137の検出限界を見積もると、約1.7 kBq/kgであった。一方、Y K X線およびZr K X線は認められず、Sr-90の濃度は検出限界(約40 kBq/kg)であった。福島県三春町で採取した中レベルの汚染土壌(平均放射能強度:785 kBq/kg)からは、Ba K X線以外に、Ni K X線およびBi L X線も観測された。これらはそれぞれ、Co-60、Pb-210のベータ壊変により放出されるX線と考えられることから、これらの核種の定量も可能であることが分かった。また、福島県飯館村で採取した高レベル汚染土壌(平均放射能強度:8.2 kBq/kg)からは、これらに加えて、Y K X線、Zr K X線がわずかに観測された。これらの強度からSr-90の濃度は100 kBq/kgのオーダーであると推定された。 以上の結果から、特性X線を精密に測定することにより、Cs-137、Co-60、Pb-210、Sr-90の簡便な定量が可能であることが分かった。本手法は、高いバックグラウンド区域における放射性核種の局所分析、ガンマ線放出率が低い核種の簡便な分析などに応用可能と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、核壊変により自発的に放出されるX線を精密に測定することにより、放射性核種の迅速、簡便な測定法の開発を目指し、以下の2段階の計画で行った。1)密封放射線源から放出される特性X線を高分解能で測定し、基礎データを得る。2)福島県内で採取した実際の汚染土から放出されるX線を測定し、本手法の有用性について検討する。 1)については、Cs-137からBa K X線、Ba L X線が十分な強度で観測されることを確認した。またSr-90からも微弱なY K X線、Zr K X線を観測したことから、X線の測定によりガンマ線を全く放出しないSr-90の測定が可能なことを明らかにした。 2)については、低レベルの汚染土壌からは、Ba K X線が観測され、本法によるCs-137の検出限界が、約1.7 kBq/kgであることを明らかにした。またCs-137との比較およびバックグラウンドの変動からSr-90の検出限界は約40 kBq/kgであることを明らかにした。また中レベルの汚染土壌からは、Ni K X線およびBi L X線も観測され、同法によりCo-60、Pb-210の定量も可能であることが分かった。さらに高レベル汚染土壌からは、微弱なY K X線、Zr K X線が観測され、これらの強度からSr-90の濃度を推定できることがわかった。 以上のことから、本研究は計画通り順調に進展したと結論した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、環境中の放射性核種について、核壊変により自発的に放出されるX線を精密に測定することにより、迅速、簡便に測定する方法について検討し、Cs-137、Co-60、Pb-210、Sr-90の簡便な定量が可能であることを明らかにした。以上の結果から、この手法は高いバックグラウンド区域における放射性核種の局所分析やガンマ線放出率が低い核種の簡便な分析などに応用可能であるとの見通しを得た。今後、この方法を実用化するためには、測定の高感度化(測定時間の短縮)や定量性のさらなる詳細な検証が必要となる。これらに関して、本研究で培われた技術を活用し、引き続き研究開発を継続していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年3月に大阪で開催予定だったX線に関する国際会議に参加し、成果発表及び情報収集を行い、本研究課題の成果をまとめる予定だったが、同会議が新型コロナウイルスの影響により中止となった。これにより生じた残金を、次年度の成果発表に係る費用(旅費、登録料等)に使用することとした。
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